虚構の劇団 虚構の劇団

鴻上尚史が旗揚げした「虚構の劇団」の第11回公演がまもなく幕を開ける。『ホーボーズ・ソング~スナフキンの手紙Neo~』という、“さすらう人たちの歌”を意味するタイトルを掲げた新作は、どんな世界になるのか。鴻上の創作の過程に、劇団だからできること、劇団ならではの面白さが、改めて見えてきた。

虚構の劇団 チケット情報

「虚構の劇団」に新作を書こうとしたとき、鴻上に映ったのは、「わさわさし始めて、どこに行くのかわからない感じの」今の日本の姿だった。「世の中全体がさすらってる感じがしてるぞと、さすらい人という意味のホーボーという言葉が浮かんだんです」。そして書いたのは、“賛成派と反対派に分かれて内戦を続ける日本”の物語だ。「今、安保法制のことで揉めているけれども、じゃあ、本当にふたつに分かれて戦いが始まったらどうなるのかと興味が湧いてきたんです」。といっても、安保法制のことを描くわけでも、警鐘を鳴らすわけでもない。「作品を作ることでそのパラレルワールドを覗いてみようということですね。そういう思考実験は、稽古初日に台本があればいいという(笑)、劇団だからできること。鴻上が今この時点で何を考えているのかということをリアルタイムで観られるのが、虚構の劇団の新作だというわけです」。

劇団を立ち上げて8年目。劇団員たちに課すものも高くなってきた。「たとえば、ふたつに分かれて戦う軍隊の片側のリーダーを演じる三上(陽永)。僕の作る芝居なので、内戦といってもただ深刻なだけにはならず、歌も踊りも笑いもあるわけで、そこを目指しながら、ある権威みたいなものを真っ当に表すことが果たしてできるのか。また、戦いの話なので、過去の虚構の劇団作品以上に、けっこうなファイティングもある。だから、ちゃんと見せられるものにするために、稽古中はもうカリカリしてるんですけど(笑)。でも、彼らに書く脚本は、僕の役者に対する挑戦状。鴻上の言葉、鴻上の演出を全身で引き受けて、必死にあがいて何とかしようとする姿は、感動的かなと。みなさんにもそれを目撃していただければなと思っています」。客演に迎えるオレノグラフィティと佃井皆美が劇団員に与える刺激にも期待しながら、「こんなやっかいな時代だけど、明日も生きていこうと思ってもらえるような芝居」を今回も目指す。今年7月にオープンしたばかりの「あかがねミュージアム」での新居浜公演は、「故郷でやる初めての芝居」。ほか2か所の四国公演と、東京、大阪公演で、「しんどい分、面白い」という新作を披露する。

各地公演ともにチケットは好評発売中。

取材・文:大内弓子