【音楽】野宮真貴、“ハッピー・サッド”な30周年記念ライブ

2012.3.28 6:00

3月19日、野宮真貴の30周年記念ライブがShibuya O-EASTにて開催された。渋谷系の女王のメモリアルライブとあって出演者は超豪華! きらびやかで美しく、ハッピーに満たされた空間に、彼女の30年が凝縮されていた。

3月19日。前日行われた室内フェス『SYNCHRONICITY'12』に続いて2日連続でShibuya O-EASTに向かうと、入り口で思い切りオシャレしたドラァグクイーンの皆さまに遭遇した。そこで、ああ今日は野宮真貴の30周年記念ライブなのだと、改めてワクワクしてくる。開演ギリギリに場内に入ると、前から後ろまでぎっしり詰まった人、人、人。もちろんチケットはソールドアウトしている。

7時を過ぎ暗転。スクリーンに「ツイッギーをさがして」というこの日のサブ・タイトルが映し出され、いよいよステージの幕が開くと、オーディエンスの期待通りの、しかし目の当たりにするとやっぱり圧倒されるきらびやかな衣装に身を包んだ野宮真貴嬢が姿を現す! 鳴らされたイントロは『東京は夜の7時』。そう、まさにこの瞬間、東京は夜の7時。演奏は先日リリースされた30周年記念アルバム『30』に収録されたDJ FUMIYA(RIP SLYME)によるリアレンジ版を、音楽監督・中塚武率いる8人編成の生バンドで再現している。サビでは当然「♪東京は夜の7時~」の大合唱。続く『ハッピー・サッド』は『30』には未収録だが、この日のために新しいアレンジが施されている。『30』ではYOUR SONG IS GOODの手によって瑞々しさが増した『陽の当たる大通り』も、3人のホーン隊を擁するバンドが、ただ再現するのではなくこのバンドならではの色をつけて再構築していく。 

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『【音楽】野宮真貴30周年記念アルバム 豪華すぎる面々が集結!』

『皆笑った』(『30』では高橋幸宏アレンジ)を歌い終えると、この日のライブの総合プロデューサーを務めるサエキけんぞう氏が登場。彼のバンド“ハルメンズ”のレコーディングに参加したことが野宮のデビューのきっかけになったという旧知の仲であること、今回のライブにあたりO-EASTという会場をサエキ氏が先走って勝手に押さえてしまったこと、お互いにバラしてはいけない秘密を隠し持ちあっていること、などなど尽きない話を披露したところで、Boogie the マッハモータースの演奏で、ソロデビューアルバム『ピンクの心』収録の『モーターハミング』と、オリジナルバージョンの『トゥイギー・トゥイギー』を披露。

続いては、まぶしいほどにまっ黄色のトップスをまとった鈴木慶一が登場し、『30』では鈴木慶一&曽我部恵一のWケイイチコンビでプロデュースした『ウサギと私』をエレキ一本で。アウトロで鈴木氏が鳴らすフィードバックが激カッコよかったのだが、しゃがみこんでギターを鳴らす鈴木氏を優しく見守る野宮嬢という対比がシュールで、妙なユーモアを醸し出していた。ちなみにこの曲、鈴木氏の中では「人に書いた曲の中で3本の指に入る曲」だったそうだが、この日をもって「1本の指に入る曲」に昇格したとのこと!

さらにソロデビュー後に結成したバンド“ポータブル・ロック”のメンバーが登場し、小西康陽がはじめて野宮真貴に歌詞を贈った『スウィート・ルネッサンス』を含む3曲を届けてくれた。3組それぞれのサウンドの触れ幅が大きく、30年というキャリアの総括という意味では、このパートがもっともわかりやすく彼女の歴史を表現していたと思う。自分を含め、ソロ~ポータブル・ロック時代の楽曲をはじめてライブで聴けた人も多かったのではないだろうか。個人的にはポータブル・ロックを生で見られるなんて信じられない気分だった! ちなみにポータブル・ロックはこの後ライブの予定もあるようだ。

休憩を挟んで第2部は、大橋トリオがしっとりジャジーに仕上げた『悲しい歌』、□□□によるビートを強調したアレンジがクールな『トゥイギー・トゥイギー』(この日2回目!)と、『30』からのナンバーが続く。そしてここからは、この日の目玉である多彩なゲストの登場だ。まずはピチカート・マニア代表のヒャダイン。「野宮さんに贈るため、みなさんと一緒に歌いたい曲があります!」と、オーディエンスを巻き込んで『アリガト WE LOVE YOU』をサプライズでプレゼント。本当にピチカートと野宮さんが好きなんだな~という心あたたまる一幕を挟んで、チップチューン風の音色からはじまるアッパーに生まれ変わった『ベイビィ・ポータブル・ロック』。ヒャダインから「ア・ニュー・ステレオフォニック・サウンド・スペクタキュラー!」という必殺フレーズが飛び出した瞬間、フロアはこの日最大級の盛り上がりを見せた。

続いて登場したのはシルクハット&当然半ズボンといういでたちのカジヒデキ。渋谷系という時代を共に築いた盟友と呼べるふたり、「野宮さんは渋谷系のプリンセスです! プリンスは……小山田君とか小沢君がいるし(笑)」と謙遜していたが、屈指の名曲をエモーショナルなネオアコサウンドに生まれ変わらせた『メッセージ・ソング』のアレンジは、彼でしか生み出せないもの。きらめき疾走するセンチメントがライブの終わりを予感させる中で、次に歌われた現時点での最新曲『私の知らない私』にシビれた。野宮本人と加藤ひさしの共作で紡がれた歌詞も、末光篤による切なさも含んだメロディも(原曲でのテイ・トウワのアレンジも素晴らしい)、「これまでの野宮真貴/これからの野宮真貴」をひっくるめて「生きること/明日も生き続けること」を肯定するこの曲は、この30周年という記念すべきライブで歌われるべき曲だったし、この日歌われた数々の名曲の中でも特別な輝きを放っていた。

そして本編ラストは『スウィート・ソウル・レビュー』。最新アルバムで個人的にいちばん驚いたDAISHI DANCEによる泣きのコード進行が施されたアレンジに、さらにサンバ調のリズムをミックスし、切ないのにどこまでもハッピーで、楽しいんだけどなんだか泣けるという、まさに“ハッピー・サッド”な空気がフロアを満たしていく。10数年前、埼玉の田舎で燻っていたオシャレとも渋谷系とも縁遠かった自分がピチカートに惹かれた理由はここだった。ポップ・ミュージックとは、現実という圧倒的な存在に立ち向かうための反逆行為であるということ。聴いてただただ心から楽しくなることができるピチカートの音楽=つまりポップという概念は、それだけで充分すぎるほど攻撃的でラジカルで、どんな音楽よりロックだしパンクであるということ。レコードの溝の数に限りがあるように、楽しい音楽にもいつか必ず終わりがくる。だから音楽が鳴っているあいだは、心の底から楽しむんだ。そして闘うんだ。そんなアティチュードがピチカートにはあったと思う。さらにピチカートはそんなポップの中に、相反する悲しさや切なさや絶望を必ず含ませていた。ただ享楽的なのではなくハッピーとサッドが同時に存在する矛盾の中にこそ本当のポップが宿るのだということも、自分はピチカートから教わった(それが野宮&小西コンビの本意であるかどうかはわからないが)。自分にとって野宮真貴の美しい歌声やキュートなコスチュームは、渋谷系の象徴でもオシャレのアイコンでもなく、現実にくじけそうになる自分を奮い立たせてくれる起爆剤であり、真っ暗闇の中にいるときでも未来を照らしてくれるサーチライトだ。世の中にハッピーもラッキーも全然なくても、例えそれが世界の真実だとしても、あの瞬間O-EASTは、間違いなくかけがえのないハッピーで満ちていた。そんな瞬間を彼女は30年間、わたしたちに届け続けてくれているのだ。

30周年特設サイトより『真貴の30変化』 過去の衣装30着をアーカイブ

アンコールに応えて再び幕が開くと、そこにはライトに浮かび上がる雅-MIYAVI-のシルエットが! 披露されるのはもちろん『スーパースター』である。彼の異形とも言える個性的なプレイで、アルバム『30』の中でも最もパンチの効いたアレンジとなった本曲、ライブで盛り上がらないわけがない。世界で活躍するという共通点を持ちつつも、やはり大きく異なる確固たる世界観を持ったもの同士のコラボレーションは、このライブが単なる集大成ではなく、野宮の新たな挑戦を披露する場でもあることを象徴していた。しかし、どんなゲストを迎えても、どの時代の曲を歌っても、圧倒的に“野宮真貴”であり続ける彼女の歌声とステージ上での佇まいには、心から感嘆してしまう。さらにピチカート・マニアはご存知のギタリスト、ブラボー小松を呼び込み、この日3度目となるピチカート版の『トゥイギー・トゥイギー』を爆音ギターとともに投下! 自分の周りのオーディエンスが、男も女も関係なく例の振り付けを踊っている光景が痛快でたまらない。彼女にとっても、わたしたちにとっても特別なロックンロール・チューンの爆発によって、アンコールは大団円を迎えた。

30周年特設サイトより『東京は夜の7時』『スーパースター』MOVIE

なおも鳴り止まないアンコールに呼ばれ、バンドメンバーがステージに帰ってくる。始まったのは『東京は夜の7時』など彼女のレパートリーのフレーズを引用した、スローなインストゥルメンタル・ナンバーだ。音楽監督の中塚武と、この日のバンドの果たした役割は本当に大きく、その最たるものがこのインストだった。これまでのステージの記憶、30年という時間が頭に浮かんでは消えていく幻想的なひとときを演出してくれた絶品の調べに乗せ、着物に身を包んだ野宮真貴が登場する。「この曲はわたしとみなさんのラブソングでもあります」という言葉に続いて歌われたのは、この夜最後のナンバー『マジック・カーペット・ライド』。次にこの曲を聴くのはいつになるだろう。サエキけんぞう氏が言っていたように、野宮真貴にはもっとたくさん歌ってほしいし、もっとたくさん豪華な衣装を着てほしいし、つまりもっと彼女のライブが見たいと、最後の曲を聴きながら思った。その機会が増えれば増えるほど、きっとこの世界はいまよりももっと輝きを増すはずだ。

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