(左から)浅野忠信、深津絵里

夫が失踪して3年。やっと日常を取り戻したピアノ教師の瑞希の前に、幽霊となった夫の優介が現れた。瑞希は優介に誘われるままに、優介が3年の間にお世話になった人々を訪ねる旅に出る――。黒沢清監督がカンヌ国際映画祭ある視点部門監督賞を受賞した『岸辺の旅』。夫婦を演じた深津絵里と浅野忠信はこれまで『ステキな金縛り』や『寄生獣』に出演して言葉を交わしていたというが、本格的な共演は初めてとなる。ともに1973年生まれ。共演を望んでいたというふたりに、同世代トークを繰り広げてもらった。

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浅野は「死んでいる男の役なのですが、こうして深津さんと夫婦の役ができることは、僕のなかでの大きなやる気につながりました。どの男に聞いても同じように答えると思いますが、深津さんのようにかわいい方がそばにいてくれるというのは嬉しいものです(笑)」と笑顔を見せながら、「経験豊富で優れた女優さんとご一緒できる作品の撮影は、僕にとっても大きな成長の場。これから先、今回の作品のように40、50代が観られる映画をしっかり作っていきたいという思いがあるので、そのためには深津さんのような素晴らしい女優さんがいてくれたら、こんなに心強いことはないですね」と共演について語る。

浅野の言葉を受けて「浅野さんはどう思っているのかわからないのですが」と切り出した深津は、「三谷(幸喜)さんの現場でご一緒しておしゃべりをしたときに、とても自分と近い感覚をお持ちの俳優さんだなと感じたんです。頑なで揺るがないところがありながらも、あっさりとそれを諦められるところとか。役者の仕事を愛しているのに、あんまりそう見えないところも(笑)。似ているところがあるなと感じました」と第一印象について振り返った。

この映画の舞台となっているのは、生者と死者が地続きの場所で息をしている世界だ。黒沢作品ならではの不穏なムードもあるが、旅をしながら互いの知らない面を知っていく夫婦の物語の根底には「シンプルな愛があると思う」とふたりは声を揃える。浅野がカンヌ映画祭で感じたのは「多くの方が、愛の力というものを受け取ってくれた。観る人それぞれが感情移入しやすい作品になっている」という感触だったという。深津も「黒沢監督がここまでストレートに愛を伝える作品は、今までなかったと思います。この映画を観たあとで、自分の大切な人を今よりも大切にしなければと思うだけでも、これからの日々の生活が豊かになるのではないでしょうか」と本作の持つ広がりについて語った。

『岸辺の旅』
10月1日(木)テアトル新宿ほか公開

取材・文:細谷美香 写真:源賀津己