ミュージカル『TOP HAT』 公演の模様 撮影:福井麻衣子 ミュージカル『TOP HAT』 公演の模様 撮影:福井麻衣子

2013年のオリヴィエ賞で3冠に輝いたイギリス産ミュージカル、『TOP HAT』の来日公演が9月30日、東急シアターオーブで開幕した。原作は、ハリウッドでミュージカル映画の黄金期を築いた史上最高のダンスコンビ、フレッド・アステア&ジンジャー・ロジャースが主演した同名の傑作映画(1935)。2011年に初めて舞台化されて以降、2度の国内ツアーとウエストエンド公演でイギリス中の観客を虜にしてきた作品の、初の国外公演だ。

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ブロードウェイで活躍するミュージカルスターのジェリーは、ウエストエンドの舞台に立つためにやってきたロンドンで、モデルのデイルにひと目惚れ。デイルもまたジェリーに心惹かれていくのだが、ひょんな行き違いから、彼を親友の夫だと思い込んでしまう。怒りと傷心のあまり旅立ったデイルを追って、ジェリーもヴェネツィアに向かうのだが……。ふたりのロマンティックかつコミカルな恋模様が、アーヴィング・バーリンの耳に残る名曲の数々、そして心躍る華やかなダンスによって綴られていく。

「ロマンティックな物語」「耳に残る音楽」「心躍るダンス」という言葉はあまりにも月並みで、これほど上質なミュージカルを語るのに相応しくないかもしれない。「その三拍子が見事に揃った」と付け加えたところで、よくある褒め言葉であることに変わりはないだろう。だが本作は、それでもあえてそうした言葉で讃えたくなる、正統派の魅力に満ちている。キャラ設定はそのままに一人ひとりの心情がより深く掘り下げられた脚本、同じソングライターの楽曲が追加採用された音楽構成、アステア・スタイルを踏襲した上で舞台ならではのダイナミズムが加えられた振付。80年近くも前に作られた映画が、奇をてらった斬新な表現に走ることなく、ひたすら丁寧で丹念な色付けによって現代に蘇っているのだ。

そうした作品自体の質の高さに加え、特筆すべきは主演のふたり、アラン・バーキットとシャーロット・グーチの抜群のコンビネーション。オリヴィエ賞にも輝いたビル・ディーマーの振付は、オーディションの途中で諦めて帰る役者が続出したと言われるほど複雑だ。そのステップを軽々と楽しげに踊りこなすふたりは、それぞれ単体で見ても十分にエレガントでチャーミングなのだが、その本当の真価はペアダンスでこそ発揮される。互いの脚がまるで吸い付き合うように共鳴しながら動き、腕が全く同じタイミングと角度でシンクロする《CHEEK TO CHEEK》の興奮を、ぜひ生で体感してほしい。

ミュージカル『TOP HAT』は10月12日(月・祝)まで東京・東急シアターオーブ、10月16日(金)から25日(日)まで大阪・梅田芸術劇場 メインホールで上演。チケットは発売中。

取材・文:町田麻子