『ナツヤスミ語辞典』 撮影:伊東和則

キャラメルボックス初期の代表作『ナツヤスミ語辞典』が5月18日、六本木・俳優座劇場で幕を開けた。

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小学校の産休代用教師だったクサナギ(多田直人)のもとに、カブト(石森美咲)、ヤンマ(金城あさみ)、アゲハ(石川彩織)の3人の教え子たちから手紙が届く。そこに書かれていたのは、3人が夏休みの中学校で体験した不思議な出来事だった……。

30年前の1989年に初演された本作は、1991年に再演、2003年に再々演された。今回、演出の成井豊が上演を決めた理由は、劇団史上初の試みとして劇団員全員に再演したい作品についてアンケートをとったところ、この作品が一位となったからだという。それほど頻繁に上演されている作品ではないにもかかわらず、根強い人気を誇る本作。劇団員の気持ちと呼応するように、公演初日のカーテンコール、鳴り止まない拍手から、観客もいかにこの作品を待ち望んでいたかがよくわかる。

初期作品ということで、近年のキャラメルボックスしか知らない観客は少し戸惑うかもしれない。俳優のエネルギッシュな台詞回しでスピーディーに展開し、物語はとてもファンタジックで、いかにも“演劇らしい”勢いに満ちた作品だ。しかし、逆にそんな部分が新鮮に感じられる。

物語はカブトたち中学生と、学校に現れた不思議な男女、ウラシマ(鍛治本大樹)とナナコ(森めぐみ)の出会いにより、思いもかけない方向へと転がっていく。もう子どもではないから、いろいろと飲み込まなければいけないことがあるのはわかる。かといって、自分の心を封じ込めて、大人の言うことを飲み込むこともできない……中学生という不安定な年頃のリリカルさが、観る人の胸へダイレクトに響いてくる。本公演のホームグラウンドであるサンシャイン劇場に比べて距離感が近い劇場での上演ということも、作品の魅力を増幅しているのかもしれない。

また、初演でカブトを演じた伊藤ひろみが今作ではヤンマの母親役を、クサナギを演じた西川浩幸がクサナギへ手紙を運んでくる「郵便屋」役として出演している。往年のファンにとってはたまらないキャスティングであると同時に、入団4年目で初主演の重責を担う石森美咲をベテラン勢がしっかりと支えていく構図は、劇団としての歴史と懐の深さをも感じさせる。

思い返せば学生時代、夏休みに突入したというだけで、毎日が魔法をかけられたようにキラキラと輝いていなかっただろうか? そんな日々を思い出すような、特別な時間と空間に満ちた舞台。これもまた、演劇という魔法のなせる業なのかもしれない。

公演は5月26日(日)まで、東京・俳優座劇場で上演される。前売りチケットは完売。5月23日(木)追加公演のみチケットぴあで当日引換券を発売中。当日券は開演の1時間前から劇場にて販売。

取材・文:川口有紀