鄭義信  撮影:源賀津己 鄭義信  撮影:源賀津己

日本の戦後、その大きな転換期となった1950、60、70年代それぞれを、市井に生きる人々の目線から描き出す、鄭義信が過去に新国立劇場に書き下ろした三作の一挙再演が今春に決定した。万博に浮かれる60年代が舞台の『焼肉ドラゴン』(2008、11年)、戦後まもない中で再生を模索する人々を描く『たとえば野に咲く花のように』(07年)、そして1970年代、石炭から石油へと転換するエネルギー政策に翻弄される人々が主人公の『パーマ屋スミレ』(12年)。だが、最初から連作の企画だったわけではなく、鄭自身も「最初に書いた『たとえば~』は、「三つの悲劇―ギリシャから」というギリシャ悲劇の翻案に三人の劇作家が取り組むという企画のために書いたもの。演出も鈴木裕美さんでした。だから、続く『焼肉~』、『パーマ屋~』と合わせて「三部作」と呼ばれるようになるとは、僕自身思ってもいなかった」と言う。

新国立劇場 鄭義信 三部作

さらに、それぞれの創作・初演を振り返り「再演を重ね、韓国公演も実現した『焼肉~』は思い入れの強い作品。日本では、ある種のノスタルジーを抱いて年齢が高めの観客が支持してくださったのに対し、韓国では若者から大きな反響があった。国や政治に翻弄され、離散していく劇中の家族に、韓国で今まさに問題となっている家族の崩壊という社会現象を重ねて観てくれたんです。

『パーマ屋~』は執筆時に苦労しました。戯曲の残り3分の1くらいのところでピタリと筆が止まって。悲劇的な展開とラストを書くことに、心のどこかで迷いや抵抗があったんだと思います。でも当時の、激しい時代の流れを描くためには、なんらかの犠牲がどうしても必要だと腹をくくった。結果、別離や旅立ちを希望として表現することが多い僕の作品には珍しく、“留まる決断”を下すヒロインが生まれたんです」とも。

『焼肉~』『たとえば~』はほぼ全キャストが刷新。続く『パーマ屋~』も一部の俳優が変わり、単なる再演ではない進化が見込まれる。「俳優が変われば、必ずそこに新たな化学反応が生まれる。演劇は人と人との関係性、その繋がりから生まれるものですから。だから演出家の僕が新しくするというより、作品が勝手に新しくなっていく、その作用に身を委ねていこうかなと、今は考えています。特に一番手の『焼肉~』は、韓国人キャストも含め、初めてご一緒する方も多いので、何が起こるか興味津々です。」という鄭の言葉を信じ、生きようと足掻き、生命を燃やす登場人物たちとの再会に期待したい。

なお、インタビューの全文はチケットぴあサイトに掲載。

チケットぴあでは一般発売に先がけ、1月12日(火)より特別割引通し券「三つの名舞台-鄭義信 三部作-」を発売する。

取材・文:尾上そら

【公演情報】
会場:新国立劇場 小劇場(東京都)
「焼肉ドラゴン」3月7日(月) から27日(日)
「たとえば野に咲く花のように」4月6日(水) から24日(日)
「パーマ屋スミレ」5月17日(火)から6月5日(日)