【漫画】『銀の匙』『百姓貴族』…ハガレンの荒川弘が描く農業

農業高校での日々を描くというマイナーなジャンルで、メディアミックスされていない中、たった2巻でミリオン超えの累計150万部を達成した『銀の匙 Silver Spoon』。作者の実体験から得たリアルを紐解きます。

週刊少年サンデーで連載中の『銀の匙 Silver Spoon』が好調だ。作者は『鋼の錬金術師(ハガレン)』で有名な女性漫画家・荒川 弘(ひろむ)氏。農業高校での日々を描くという少年漫画では比較的マイナーなジャンルで、まだメディアミックスされていないにも関わらず、公式発表によればわずか2巻でミリオン超えの累計150万部を達成している。しかもこれは今年3月に「マンガ大賞2012」受賞が発表される前の数字である。受賞後はさらに注目度がアップし、最新の3巻が出た現時点で累計250万部にまで記録を伸ばした。まさに破竹の勢いと言えるだろう。

主人公の八軒(はちけん)勇吾は、受験戦争からドロップアウトした北海道在住のメガネ少年。家族とぎくしゃくした挙げ句「寮生活なら家に戻らず済む」という理由から進学先に農業高校を選んだだけで、農業関係の仕事に就きたいなどの夢はまったくない。ところが入学してみると周囲のクラスメートたちは将来○○になりたいという目標がハッキリしており、逃げてきた先でも彼はプレッシャーを味わうことになる。――この初期設定こそが本作のテーマだ。担当編集者によれば「サンデーの主要読者である15~16歳くらいの少年は“将来のこと”が大きな関心事」で、作者の荒川氏と連載前に話し合った結果、そのテーマを真っ向から描いて読者にぶつけてみることになったという。

メインテーマに関係して、もう一つサブテーマを挙げるとすれば“価値観”がキーワードになるだろう。農業高校をどこか舐めていた勇吾は、入学早々からすさまじいカルチャーギャップに驚かされる。果てしなく広がる学校敷地、その敷地内には「クマ出没」の看板、ケータイ電波もろくに届かない、体育では一周20キロのマラソン、早朝5時からはじまる実習、目の前にいるよちよち歩きの子豚が3ヶ月後には食肉に変わる現実……まさに勇吾少年(=読者の視点)から見れば毎日がサプライズの連続だ。勉強さえしていればいいという今までの価値観は通用しない。健全な少年誌なのに第一話からモザイクがかかる(生きたまま首を落とされた鶏)という容赦無さも凄い。こうした生活のなかで勇吾は友達、教師、バイト先の家族などたくさんの人と出会い、多彩な価値観に触れ、それまで勉強一筋だった自分の考え方を変化させていく。コミックス2巻で勇吾がふと漏らした「答えはひとつじゃなくていいんだ」というセリフは、彼の価値観が変化しつつあるのを簡潔に示した名シーンだ。

ちょっと読んだだけでは代表作『鋼の錬金術師』と作風が大きく違うように思えるかもしれないが、特殊な舞台設定、ギャグとシリアスの絶妙なバランス、かわいいヒロイン、苦難を超えて成長していく主人公など、王道少年漫画の要素は漏れなく備えている。「もう少年漫画を読む年齢じゃないから」「どうせ人気作家のネームバリューだけで売れてるんでしょ」といった先入観がある人ほど、この作品をぜひ読んでいただきたい。実は太っ腹なことに、小学館のクラブサンデー公式サイトでは『銀の匙』第一話を37ページ丸ごと無料で読むことができる。まだ去年連載スタートしたばかりなので、試し読みで気に入ってから全巻まとめ買いするのも容易なはずだ。

いま人気の動画

     

人気記事ランキング