日本では初の大規模個展 となるため、メディア露出が 少なかったが、展覧会の開 幕後、にわかに注目が集まっ ている。「美しくも毒々しい 世界!」「アニメやゲームの 仮想世界のよう」など、 twitterの投稿も急増中だ。
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その後、彼女を一躍有名にした作品が「壮麗な輝き」(1997年)である。生魚をビーズなどで飾り付け、美しく並べてディスプレイした。人工の装飾はそのままに、自然である魚は腐っていく。展示したニューヨーク近代美術館では、その腐敗臭ゆえに作品が撤去されるという顛末だったが、これを機に、リヨンやヴェニスなど名だたる国際展の招待作家となっていった。

代表作のひとつ「サイボーグ」シリーズは、テクノロジーと融合した究極の身体を求める人間の欲望を、アニメや映画に登場する美少女戦士のキャラクターをコードとして表現したのだろうか。美しいが顔や手足の欠けた彫像は、ミロのヴィーナスを思わせる。宙にぶら下がる彼女たち、どこか哀しい。

80年代、軍事政権から民主 化へと移行した韓国で作家 活動を始めたイ・ブル。90年 代以降、韓国経済がグローバ ル化し急成長する一方で、彼女の活動も国際的になり、アジアを代表するアーティストとしてキャリアを築いている。拡大画像表示

'05年以降取り組んでいる「私の大きな物語」は、ブルーノ・タウトなどヨーロッパ近代のユートピア思想と、韓国の歴史や事件に、自身の物語を重ね合わせたシリーズだ。無数のビーズやチェーンでキラキラと輝く壮麗な構築物だが、理想と現実に引き裂かれる人間たちへのレクイエムとも思える。

激動の韓国で生まれ育ち、人間の生きる意味を問い続け、世界を見つめ続けてきたイ・ブル。彼女の根源的な問いは、世界中で変革が起こっている今、私たちの心を揺さぶる。一見グロテスクなものから、光り輝く美しい作品まで、幅広い表現を支えるのは、時代をグローバルな視点で見据え、生き抜くための力強さだ。韓国のアーティストたちが世界で躍進する理由が、イ・ブル展には詰まっている。

 

『イ・ブル展:私からあなたへ、私たちだけに』
5月27日(日)まで、森美術館にて開催中  
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