PND(ポータブル・ナビゲーション・デバイス)が好調に推移している。昨年7月24日の地デジへの完全移行に伴って、クルマに備えつけのカー・ナビゲーション・システム(カーナビ)からの買い替えが進んだほか、旅行時の散策で持ち歩いたり、自転車に取りつけてサイクリングを楽しんだりする人が多くなっているのだ。地図やガイドブックなど、旅に必要な情報を凝縮したPNDは、ナビゲーション・デバイスの新しい価値を創造しつつある。
●7月に前年割れから急転 11月には1.6倍以上に
これまでPNDは、カーナビを搭載していないクルマへの後づけで選択されるケースが多い、いわばカーナビの廉価版的存在だった。さらに、市場にはマップ機能をもつスマートフォンという大きなライバルがいる。昨年までの家電量販店での売れ行きは、決してかんばしいものではなかった。
家電量販店の実売データを集計した「BCNランキング」によれば、PNDの販売台数は2011年6月が前年同月比92.4%。また、6月以前も前年割れが続いていた。ところが7月以降、この状況が急転する。
7月は、販売台数が前年同月比122.2%。8月も、122.6%と1.2倍以上の伸びを維持した。以降もさらに増加。9月が151.9%、10月が150.9%で、11月には164.0%を記録した。年末商戦のピークである12月は少し落ち着いたものの、それでも147.4%と1.5倍弱の伸び。今年に入ってからも、1月に152.1%、2月に124.0%、3月に134.5%と前年を上回っている。
販売が好調に推移するようになったのは、昨年6月に各メーカーによる新製品が発売されてからだ。最も大きな要因は、地デジへの完全移行。テレビチューナー搭載があたりまえのカーナビで、7月24日以降はテレビ番組が視聴できなくなるということで、ユーザーが動いた。もちろん、一般のカーナビへの買い替えも多かったが、価格が手頃で簡単に取りつけられるPNDで地デジ化に対応するユーザーも多かったということだ。地デジ化の準備で、移行直前の7月に購入者が集中した。
●自転車に装着してサイクリング、旅行で街の散策にも役立つ
昨年の7月以降、今年に入ってからも販売が伸び続けているのは、カーナビの地デジ化だけではない。PNDは、クルマ以外のシーンで活用されるようになってきている。
まずは自転車だ。最近は、自転車通勤者が増えている。昨年3月11日に発生した東日本大震災を機に、自転車通勤に切り替えた人もいる。そんな人が、カーナビならぬサイクルナビとしてPNDを活用しているのだ。また、サイクリングを楽しむ際にPNDを装着するユーザーも増えている。GPS機能を駆使してナビとして使うのであれば、スマートフォンでもこと足りるかもしれない。しかし、落としたら壊れやすいスマートフォンと違って、最近のPNDは耐久性を高めたモデルが充実している。車内に据え置くカーナビとは異なり、自転車での使用では、さまざまな気象条件にさらされる。この耐久性を勘案してPNDを選択するユーザーが多くなっているのだ。
旅先での散策でも使い勝手がいい。クルマに装着したPNDを目的地まではカーナビとして使い、旅先でPNDを外して、散策で持ち歩く人が多い。これは、とくにスマートフォンをもっていない中高年層に多いようだ。
もちろん、手頃な価格もユーザーの増加につながっている。BCNランキングで平均単価をみると、昨年6月に3万3000円だったものが、今年3月に2万9000円台と3万円を切った。とくに昨年6月以降、1万円台のモデルが相次いで発売され、人気を博している。
機能、用途、価格でユーザーが納得のいくアイテムになりつつあるPND。今後も、堅調な伸びが期待できそうだ。(佐相彰彦)
*「BCNランキング」は、全国の主要家電量販店・ネットショップからパソコンやデジタル家電などの実売データを毎日収集・集計している実売データベースで、日本の店頭市場の約4割をカバーしています。
※本記事は、ITビジネス情報紙「週刊BCN」2012年5月7日付 vol.1430より転載したものです。 >> 週刊BCNとは