(c)2010 SECONDWIND FILM. All rights reserved.

名匠イ・チャンドン監督作『ポエトリーアグネスの詩』の助監督を経て、『ムサン日記 白い犬』で長編デビューを飾ったパク・ジョンボム監督に思いを聞いた。

自ら監督・脚本・主演を務め、脱北した青年の孤独と葛藤を描いた本作の背景には、亡き友スンチョル氏との思い出があると言う。「スンチョルはとても明るい奴で、彼と暗闇の中、サッカーボールを蹴った思い出が今も強く残っています。彼は脱北して懸命に生きてきたけど、大変な思いを抱えているんだとは感じていました」。そんなスンチョル氏の思いを、本作では“色”で表したと語る。「聖歌隊が着る服や、劇中でスンチョルにとって唯一の友となる犬のペックなどは、全て“白”なんです。スンチョルが求めていたのは純粋さを表す白だったのではと考えました。『白い世界に行きたい』と思いながらも、彼の現実はなんとなく灰色だったり、暗い色に覆われている、そんな対比を色で表現しました」。

やり場のない思いや暗澹たる日常を描いたシーンは、観客も決して他人ごとではないと感じさせる妙なリアルさが表れている。監督はある動作も人間の“根本的な欲”を表しているのだと教えてくれた。「水を飲むシーンを意識的に入れました。ケンカをした後や、懺悔をした後にスンチョルは水をよく飲んでいます。水は人間にとって生きる上で大切なものですよね。スンチョルと出会い、この作品を作ると決めて特に描きたかったのは、“人間に対する喉の渇き、人を求めていた”ということだったんです」。

「現実を伝える映画を作りたい」と借金をして資金を集め制作された本作は、世界で数々の賞を受賞し、いよいよ日本での公開を迎える。「この作品をたくさん評価していただいたことを、スンチョルもどこかで必ず見ていると思います。喜んで笑ってくれているんじゃないかな。彼に会うことはできないけれど、でも自分が思い出しさえすれば、きっとすぐに現れてくれるような気がします」

『ムサン日記 白い犬』
5月12日(土)より、シアター・イメージフォーラム他全国順次ロードショー