『ハンドダウンキッチン』舞台より【撮影:加藤幸広】 『ハンドダウンキッチン』舞台より【撮影:加藤幸広】

劇団モダンスイマーズの蓬莱竜太が、オリジナル新作『ハンドダウンキッチン』を発表。演出家として、初めてパルコ劇場に進出する。5月12日の初日に先がけ、前日11日に、マスコミ向けの公開リハーサルを実施。出演者による会見も行われた。

『ハンドダウンキッチン』チケット情報

物語は北アルプスのふもとに位置する、小さなレストラン“山猫”を舞台に展開する。決して便利とは言えない立地ながら、カリスマシェフ・七島誠が作り出すほかでは味わえない料理目当てに、山猫には連日多くのファンが詰めかけていた。そこに東京の有名レストランを辞めた若きシェフ・関谷直也がやって来る。七島に新たな夢と、シェフとしての本当の生き方を見出して。しかし関谷が山猫で目にしたのは、人気店とはほど遠い現状だった……。

仲村トオル演じる七島は、カリスマシェフと呼ばれながらも料理をしない。厨房でタバコを吸い、賭け事に興じる。ある意味、嫌悪感すら抱かせるような人物だ。だが不思議と、彼の言うことに耳を傾けずにはいられない。それは彼が発する「売れている店が正しい」「客は星(ランク)に群がる」という言葉を、完全に否定することができないからだろう。そしてこれは決して料理の世界だけに言えることではない。演劇にも、さらには世の中にあふれる事象すべてに共通して言えること。そんな思いを、作家は七島の姿を借りて痛烈に訴える。

柄本佑演じる関谷は、山猫がギリギリで保ってきた均衡に一石を投じる存在だ。関谷の言うことは正論である。正論ではあるが、それを素直に受け止めることはなかなか難しい。登場人物たちが、そしてこの物語を見守った観客が、ここからどんな答えを導き出すのか。ラスト、作家は大きな課題を見ている我々に投げかけた。

会見には、仲村、柄本のほか、七島誠の姉・梢役のYOUと、誠の店で働く山田役の中村倫也も登場。稽古の印象について仲村が、「皆さんプロ意識が高く、今までで最も順調で充実した稽古場でした」と語ると、「プロデュース公演ではチームワークを築くのが難しい。でも今回は本当に素敵な方々が集まり、蓬莱さんを中心に、いい緊張感と距離感のなかで作品を仕上げることができました」と中村が続ける。そんな中村の言葉に同世代の柄本は、「倫也さんはしっかりしてるなぁ」と感心しきり。するとYOUからは「佑はお子ちゃまだからね(笑)」とのツッコミが。現場は笑いに包まれ、こんなところにもチームワークのよさが垣間見えた瞬間だった。

公演は6月3日(日)まで東京・PARCO劇場にて上演。その後、6月5日(火)に福岡市民会館 大ホール、6月9日(土)・10日(日)に大阪・森ノ宮ピロティホール、6月14日(木)に愛知県産業労働センター 大ホールと各地を回る。チケットは発売中。

取材・文:野上瑠美子