ラッパ屋第42回公演『筋書ナシコ』 撮影:木村洋一 ラッパ屋第42回公演『筋書ナシコ』 撮影:木村洋一

ラッパ屋第42回公演『筋書ナシコ』が、6月18日に東京・紀伊國屋ホールで開幕した。

ラッパ屋『筋書ナシコ』チケット情報

本作は、劇団主宰・鈴木聡による書き下ろし作品。主人公は、40代のフリーランス雑誌ライター・梨子。バツイチ、独身、収入は不安定。唯一の発注元である出版社はネット時代のあおりを受けて倒産の危機…。“人生の筋書き”が行方不明の梨子(ナシコ)を中心に、パーティー会場の“共有スペース”で起きる人間模様を描くワンシチュエーション・コメディだ。

共有スペースで出会う(居合わせる)15人の登場人物は、フリーランス、社長、会社員、地方の名士など職業もバラバラだし、世代もバラバラ。濃いキャラだらけだが、バブル世代を経たか否かや、デジタルネイティブか否かなど、世代のリアリティも反映されており、「いるいる!こんな人」「私、こういう考え方する」と引き込まれる。そんな“あるある”の連続に、客席は笑ったり、共感したり、驚いたり。客席全体が同じ箇所でドッと笑うこともあれば、バラバラと笑い声が上がることもあり、観ている人の背景によって反応が違うのだと感じた。

脚本・演出の鈴木が“出版不況、格差、人は見た目が9割問題、メディアの危機、高齢者婚活、東京と地方、年齢詐称疑惑、舛添さん、センテンススプリング問題、ダメージジーンズ問題”と紹介しているように時事ネタも多く、今の時代の縮図のような状況が多く描かれている。だがそれらをただ茶化して笑わせるのではなく、まず鈴木の温かな目線があり、梨子役の岩橋道子をはじめ役者たちの芝居が魅力的に描き出す。だから観客は何も考えずに思い切り笑えるし、晴れやかな気分になれる。リラックスして自由な空気で楽しめるムードも舞台から漂ってくるものだろう。

演劇好きやラッパ屋ファンはもちろんだが、演劇ビギナーも楽しめる作品。特に仕事をしている人なら、職場のうるさい上司やイマイチ理解できない部下、さらにはあまり関わり合いのない取引先の人まで、なんだか愛おしく見えてきそうだ。物語には清々しい大団円が待っている。そんな大団円の末に生まれた、梨子の“人生の筋書き探し”の行方はぜひ劇場で確かめてほしい。

ラッパ屋第42回公演『筋書ナシコ』は、6月26日(日)まで、東京・紀伊國屋ホールにて。チケットは発売中。

取材・文:中川實穗