小沢道成 撮影:石阪大輔

ひとり芝居は、静かで難しい。そんな先入観を吹き飛ばす、ユニークなひとり芝居が幕を開ける。それが、EPOCH MAN『鶴かもしれない2020』だ。舞台に立つのは俳優・小沢道成ひとり。舞台上に置いた3台のラジカセを共演者に、そこから流れる台詞と対話することで物語が進んでいく。

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「1度再生ボタンをしたらノンストップ。あとは僕がタイミングを合わせるしかない。もし少しでも台詞を間違えたら、その時点でアウトです」と小沢は恐ろしそうに笑う。テクノロジー時代の逆を行くアナログなスタイルだが、「あえてそういう不便でリスキーな方を選ぶのが好き」と語り、「ミスをしたら1発でバレる。その緊張感も生の醍醐味」と顔を綻ばせる。

もちろんラジカセから流す台詞も、小沢自ら演じ、録音する。すべて自前が、最大の特色。EPOCH MANは、劇団☆新感線から月刊「根本宗子」まで様々な舞台に出演する小沢が、自分が面白いと思う演劇を形にするために立ち上げたソロユニット。自ら脚本・演出・出演を担い、美術までも自力で製作する。

本作は、昔話の『鶴の恩返し』がモチーフ。「助けてくれた男の人のために、自分の羽をむしり取ってまで機(はた)を織る。そんなふうに好きな人のために何でも尽くしたくなる感情って、現代でもよくあると思う」と、お伽噺の持つ普遍性に着目。ある男を好きになってしまった女の一途で悲痛な愛を描く。

これまでも女性の持つ執着心や依存心をコミカルかつリアルに演じ、観客の共感を得てきた。「何かにもがいている人が好きなんです。もがくのは、本当はこうなりたいという理想があるから」と分析し、「だけど、理想通りになれずに葛藤している。そういう人を応援したくなるんです」と登場人物に優しい眼差しを向ける。

上演は今回で3度目。「お客さんの感想を聞くと衝撃がすごかったみたいで。みなさんが驚いてくださったのが、拍手の熱さから感じました」と自信を深める一方、「初演のときはまだ20代で、救いのない話になっていた」と回顧。34歳になった今は「より明るい方向を目指したい。今回のテーマは“日常”。きっと彼女がほしかったのは、朝起きて窓を開けたら眩しい陽射しが降り注ぐような当たり前の“日常”。そこをより描けたらギャップが出て面白いと思う」と構想を明かす。

公演は2020年1月9日(木)から13日(月・祝)まで下北沢 駅前劇場にて上演。

取材・文:横川良明