「かさなる視点-日本戯曲の力-」 (画像左から)小川絵梨子、上村聡史、谷賢一、宮田慶子 「かさなる視点-日本戯曲の力-」 (画像左から)小川絵梨子、上村聡史、谷賢一、宮田慶子

新国立劇場にて来春「かさなる視点-日本戯曲の力-」と銘打ち、近代演劇の礎となった昭和30年代に発表された3本の戯曲を、30代の3人の演出家の手で上演することが決定した。三島由紀夫の『白蟻の巣』を演出する谷賢一、安部公房の『城塞』を上演する上村聡史、田中千禾夫の『マリアの首-幻に長崎を想う曲-』の演出を務める小川絵梨子、同劇場の芸術監督を務める宮田慶子が出席しての取材会が行われた。

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宮田は“国立”の劇場として「日本の戯曲を大切にしたいとずっと思っていた」と語る。2010年の芸術監督就任から「JAPAN MEETS…-現代劇の系譜をひもとく-」シリーズでは近現代の海外戯曲の新訳などを上演してきたが、満を持しての国内の名作の上演。「脂の乗った30代の演出家たちが、あの時代の日本の戯曲にどう向き合うか見てほしい」と期待を寄せた。

3作品は、いずれも昭和30年代に発表されており、宮田はこの時代を「戦後10年以上が経って、焦土から復興を遂げ、そろそろ高度経済成長が始まる頃であるけど、戦争の跡と新しい時代の狭間で軋んでいた時代」と語る。

『白蟻の巣』は三島の初長編戯曲。ブラジルの農園を舞台にした人間ドラマで、戦後の空虚感が色濃く描き出される。谷は「当時の現実にベッタリとへばりつく必要はない。34歳の僕がいま読んでピンと来た、現代と重なる部分を立てるような形で演出していきたい」と意気込みを口にした。

『城塞』は、ある一家の姿を通して安部公房が戦争責任を問うた作品だが、上村は「“戦後”をテーマに掲げて上演したい」と語る。「いま、グローバルな価値観と、民族性や国民性といったドメスティックに根付いている日本人のローカルな価値観が軋み始めている印象があり、不穏な音を立てている気がしています。演劇でそのこととどう対峙できるか? 敗戦後の再生の陰で変わらなかった日本人の精神、戦争責任の所在に目を向けることで、その軋みをひも解く糸口になるのではないか? いま、上演されて真価が発揮される作品だと思います」と自信をのぞかせた。

小川は宮田から、被爆地・長崎を舞台にした『マリアの首』を勧められ、目を通して「直感で、やってみたいと思った」と明かす。これまで翻訳劇が多かったこともあり「挑戦であり、プレッシャーや不安もあるし、難しい作品だと思います」とも。本作に挑む上でとっかかりとして挙げたのが「当時、大人とは言えないまでも、既に息づいていた」75歳の自身の父親の存在。「市井の人々の話であり、生活臭をちゃんと描くことが大事だと思っています。そこにあった“ニオイ”を私も体感したい」と語った。

同世代の演出家が、同じ時期に発表された名作を演出するということで「比べられる(苦笑)」(小川)、「一生懸命、ケンカしたい(笑)」(谷)など、互いを意識する発言も。「次の時代を拓き、日本の演劇界を引っ張っていく三人」(宮田)がどのように“戦後”に挑むのか?楽しみに待ちたい。公演は3月から5月まで順次上演。いずれも新国立劇場 小劇場にて。

取材・文・撮影:黒豆直樹