キャラメルボックス『鍵泥棒のメソッド』 撮影:伊東和則 キャラメルボックス『鍵泥棒のメソッド』 撮影:伊東和則

3月2日、キャラメルボックスの『鍵泥棒のメソッド』が東京・サンシャイン劇場にて開幕した。内田けんじ監督による同名映画を舞台化したこの作品は、2014年の初演から3年ぶりの上演。今回、中心となる3人には初演から岡田達也、畑中智行が続投、そして実川貴美子が新たに参加し、初演のよいところを活かした“決定版”ともいえる再演となっている。

キャラメルボックス『鍵泥棒のメソッド』チケット情報

売れないまま35歳になってしまった舞台俳優、桜井(畑中)。銭湯に行くと、目の前で男が転倒。転がってきた彼のロッカーの鍵を、つい出来心で自分のものと交換してしまう。転倒した男、コンドウ(岡田)はそのショックで記憶をなくしてしまい、所持品から自分を桜井と思いながら生きることに。さらに雑誌編集長の香苗(実川)がコンドウと出会う……。

今回はコンドウとして生きる桜井に厄介な依頼を持ちかける工藤に文学座の石橋徹郎、その手下である土屋に久保田秀敏が出演。石橋はひと筋縄ではいかない裏社会の男を、久保田はその有能な右腕を好演している。また、ふたりとももうひと役、かなり癖の強い役柄で登場し、ほかではなかなか見られない振り切った演技を見せる場面も。

映画を舞台に仕立てるにあたって、キャラメルボックスが選んだのは「原作に忠実に演じる」こと。役者たちも「自分らしさを出そう」と気負うのではなく、映画に込められた魅力を再現することに楽しさを見出している様子が演技の端々に見てとれる。舞台を目で追っていると映画の記憶がところどころでよみがえり、それがシンプルなセットで表現された舞台にさらなる彩りを与える。

一方で、映画を観ていない観客にとっては、これが映画原作であることが意外に感じられるかもしれない。それくらい、舞台ならではの表現方法も随所にちりばめられているからだ。特筆すべきは序盤、コンドウが記憶喪失に陥る瞬間の表現。CGにもワイヤーにも頼らない表現によって、ダイナミズムと笑いが同時に押し寄せる名場面が生まれている。またふたつの人生の交差を象徴的な白と黒のドアによって表現していく面白さは、まさに舞台でしか味わうことのできないもの。

舞台俳優の桜井と、謎の仕事をするコンドウ。ふたりとも、演技すること、誰かの人生を盗んでその人になりきることを必要としている。そのため、セリフにはしばしば演技論に関する言葉が織り込まれている。そのセリフが発せられると、ふと映画で演じられた役柄を舞台で演じるというこの状況自体に意識が及ぶ。物語に現実が重なることで、思いがけない深みを与えているのだ。こんな構造のなかで役者たちが素直に演じることを楽しんでいる様子からして、この作品はキャラメルボックスにとって、新たなる代表作のひとつといえるのではないだろうか。ちなみに、舞台俳優の男が所属していた劇団について話すくだりにちょっとしたお楽しみが潜んでいるので、ぜひ注目してほしい。

東京公演は3月12日(日)まで。3月18日(土)から20日(月・祝)まで大阪・梅田芸術劇場シアター・ドラマシティにて上演。

取材・文/釣木文恵