売上は減っても「なんだか最高じゃない」、レストランに何を求めるか

大木 こうして見てみると、フレンチってけっこう対応が分かれますね。若手は積極的に動いていますが、大御所は……。

浅妻 そうなんです。実は4月の頭にお誕生日だったんですけど、『ラ・ブランシュ』の味が食べたくて。営業はしていたのですが、テイクアウトもやっていないかな、と思ってお店に電話してみたんですよ。

そうしたらサービスの方が、「うちのシェフは頑ななので、絶対やらないんですよ」って苦笑いでおっしゃっていて。「フレンチのシェフでも、パスタソースとかやっちゃえばいいじゃないですか」って言ってみたんですけど(笑)。

小石原 今だからこそというか、今しか出せないメニュー。

浅妻 「たぶんやらないと思います、一応言っておきますけど」って笑ってくださいましたね。やっぱり田代シェフは、「うちの店は来てもらって食べてもらってなんぼだから」っておっしゃっていて。それはよく分かる。

ラブランシュは体力のある店だと思います、でもそのスタンスでずっと行くか、あるいは方向転換も今後あるのか。

小石原 テイクアウト、『北島亭』もやってないですよね。

牧元 やってないです。

大木 『コートドール』なんかはどうなんでしょうね。

牧元 コートドールだって、絶対テイクアウトはやらないですよ。

浅妻 きっとやらないですよね。

牧元 どんなことがあったってやらないですよ。

フードジャーナリストの井川直子さんがnoteで、今回のコロナでみなさんがどう思って、どのように対処したか、今後どのように対処していくかをインタビューした記事があるんですが、その中で由比ヶ浜『マンナ』の原優子シェフの答えが胸にしみました。

お店は短縮営業で、お客さんの数を減らして営業なさっているので、昼も夜も満席だった店の売り上げは半減以下のようです。

しかし彼女がまず思ったのは、「今まで働き過ぎてたんだわ。なんだかこのペースって最高じゃない」ということ。売上が減ってもテイクアウトはされていない。理由は「だって私のやりたいのはレストランだから」という。

マスクもしていないのは、この状況で店に来てくれているお客さんは、お店の人がマスクしていたら嫌だと思うんじゃないかしらという理由だそうです。消毒液は用意しているが、手を洗ってくださいとか、アルコール消毒してくださいとかは、あえてすすめていないという。

こんな状況なので、それはお客さん自身が自分で考えるでしょうというスタンスです。つまり大人が、自分で考えて、判断して来店していることを尊重したいということなんですね。

それぞれの店によって事情が違うとは思いますが、これこそが人を癒す場所としてのレストランの基本だと思いました。彼女のように、今後のアフターコロナ、ウィズコロナの時代は、自分がどうありたいかということを明確に出したお店が生き残っていく気がします。

小石原 『ラ・クレリエール』の柴田シェフも言ってました。コロナ禍で売上は当然激減したけど「悪いことはなにもなかった!」そうです。テイクアウェイに挑戦したり、YouTube配信を始めたり、新しい引き出しが増えて一皮むけた感があったと。

「いかにして美味しく食べてもらうかがお店での営業時以上に最優先な状況になったことで、職業としての料理人じゃなくて生き様が料理人、になれた気がする」とも。

前代未聞の事態の中でも、自分が最大限できることを模索した結果こういう境地に到達できるケースも稀ながらあるんだなあ、と。“ピンチはチャンス”を体現しますよね。

大木 なるほどー。

浅妻 そういうお店の人たちが、どこまで踏ん張っていけるかですね。

あえて“テイクアウトはやらない”という選択

牧元 でも、ベテランシェフのところはそうしてまで生き残る、ということを考えない気がするんですよ。そこがいいことであり、怖いことでもある。

松浦 『アラジン』の川﨑シェフは勇退されましたね。

牧元 彼は前からこの時期にって決めておられたみたいですから。

浅妻 これを機に、ベテランシェフのお店の中で消えちゃう店なんかも出てきちゃうのかな、と思うと。

牧元 そう思うとね、大変ですよ。もうね、ラブランシュなんてスペシャリテのイワシとジャガイモの重ね焼きを真空パックにして売ればいいのに。絶対できるよ、あれは。

浅妻 できますよね。だから、「あれはテイクアウトできないんですか」とか、「お誕生日なんです」とか、いろいろ言ったんですけど(笑)ちょっと難しくて。

小石原 いやいや、それはシェフ的にダメでしょう(笑)。

牧元 シェフ的にはダメだけれども。あれは絶対にできると思う。

浅妻 できますよね。

小石原 もれなく田代シェフが付いてきちゃいそう(笑)。

浅妻 目の届かないところで食べるな、みたいなね(笑)。

小石原 心配だ~って。

森脇 コートドールの牛テールの赤ワイン煮込みもテイクアウトできそうな気がします。

小石原 あれも斎須シェフがうちまでいらしてしまう、きっと。

牧元 でもあれ、真空パックにするとぐちゃぐちゃになっちゃいそうですよ。

浅妻 テイクアウトはできそうですよね、鍋を持っていけば。

小石原 うっかりこ汚いお鍋を差し出そうものなら磨いてくれちゃう!

松浦 底光りするまで掃除されて帰ってくる(笑)。

大木 コートドールといえば、磨き抜かれた厨房で有名すからね。

浅妻 ああいうシェフたちがね、それこそやりやすいパスタソースとかを作ったらいいな、って思って。田代さんのパスタソースとか、北島亭のパスタソースとか、良くないですか? 一番やりやすいかな、と思って。

小石原 ねえ。

浅妻 でも、彼らは頑なにやらないんだろうな、っていう世代の人たちですよね。

小石原 ダメなんでしょうね。イタリアンじゃん、ってなっちゃうから。

牧元 そういえば、『ルマンジュトゥー』ってどうしてるんですか?

大木 営業してますね。谷シェフですから。

小石原 『レスプリ・ミタニ』はテイクアウトやってます。

牧元 おお、なに? どんなの?

小石原 まだ頼んでないんですけど、鶏の赤ワイン煮込みとか。名物のスープドポワソンとか。

浅妻 煮込み系だね。

牧元 それは素晴らしい。

森脇 スープドポワソン買いに行かなきゃ。

小石原 三谷さんの料理は強いですよね。サラダ以外はいける気がする。

牧元 サラダが食べたい。

小石原 食べたいですけど。

浅妻 ル・コックもテイクアウト頑張っているのだから。

大木 確かに。ル・コックがやるんだったらみんなね。

浅妻 そうそう、みんなその気になればできますよね。確かにサーモンはやりやすいのかもしれないけど。

牧元 あとね、鶏の煮込みもあるんで。煮込み料理ってできるじゃないですか。

小石原 コンフィもできますよね。

浅妻 コンフィはいくつかやっているところがありますね。『コンコンブル』とか。

大木 やはり、あえてやらないという選択をなさっている。

小石原 フランス料理人としての矜持みたいなものがね。

浅妻 それがこうした機会に、どう出るかというのも少し心配です。

松浦 カレーはいいけどパスタはダメ、とかってことですかね。

大木 じゃあカレーをやればいいじゃないですか。

小石原 ここまでだったらアリかな、という線がどこか、っていう。

牧元 和食だったら親子丼とかもできますよ。

小石原 賄い、ってことにすればなんだってできますよ。賄いだったら、普段食べられないから食べてみたい、っていう。

大木 そうですよね。ところで浅妻さんは、フレンチのシェフだろうが和食の職人だろうが、どうしてもパスタソースを作ってほしいんですね。

浅妻 あはは。いや、パスタじゃなくてもいいんですけどね(笑)。煮込みでもいいけど、火が通っていて安全で。

なぜパスタがいいかっていうと、これはフレンチの方もおっしゃっていたのですが、他のものより利益率が高いことが多いんです。もちろん、凝りだしたらきりがないでしょうが、一般的には。

そして量も作りやすい。利益が上って安全で、調理においても食べることにおいても、パスタなら敷居が低いので客の間口も広がります。

お互いにいいかなと思って。向こうに利益を上げてもらわないとしょうがないかな、と思う。

大木 確かに。

浅妻 和食屋さんもすごいがんばってお節料理みたいなのを作っていて、とてもありがたいのですが「こんな大変な思いまでさせて悪いな」って思っちゃったりとか。

だったら、明太子パスタソースでも山椒風味や醤油風味の鶏肉のパスタソースなんていうのを作ってもらえば、こういう緊急時はいいかな、って思っちゃうんですよ。いや、なんとしてでも踏ん張って欲しいという、つまりはそれだけなんですけど。

大木 たしかにそのあたりは考えるべきですね。