会見より。左から、寿里、平野良、帆風成海、今立進  撮影:鏡田伸幸 会見より。左から、寿里、平野良、帆風成海、今立進  撮影:鏡田伸幸

文学と演劇をもっと気軽に!と始まった“文劇喫茶”シリーズの第一弾『それから』(夏目漱石原作)が5月3日に東京・俳優座劇場で開幕。同日、公開ゲネプロと囲み取材が行われ、平野良、帆風成海、今立進(エレキコミック)、日替わりゲストの寿里が登壇した。

文劇喫茶シリーズ『それから』チケット情報

夏目漱石の名著を原作に、劇団「□字ック」の山田佳奈が演出を手掛け、平野良、帆風成海、今立進(エレキコミック)の3人芝居(+日替わりゲスト)でみせるという挑戦作。映像などは使わずに、ただただ芝居とシンプルだが印象的な演出でみせていく。

物語は、良家の次男坊である代助(平野)を中心に描かれる。大学を卒業しても、社会とは距離を置き、実家からの援助で自由気ままに生きる代助。そんな代助のもとに銀行に就職した親友の平岡(今立)から一通の手紙が届く。「昨日二時に東京着、明日の午前に会いたし」。この親友とその妻・三千代(帆風)との再会が代助を思わぬ方向へ導いていく――。

ゲネプロ後の囲み取材で平野が「役者として普段は見逃してしまいがちな細かいところも一つひとつ拾いながらお芝居を積み上げる、繊細な作業が多い」、今立も「演出の山田さんもしっかりと芝居をつけてくださり、繊細につくられたもの」と口を揃えたように、目線の動きをも印象的にみせる濃厚な舞台。帆風は「台詞は多いのですが一つひとつの言葉の端々にいろいろなものを込めていけたら」と話したように、文学作品ならではの密度でさまざまな感情が表現されていく。

また、数々の登場人物を、帆風と今立がさまざまな表現で演じているのも見どころ。中には代助の会話相手がそのまま別の人間となるシーンも。その鮮やかな演じ分けに楽しまされた。そうやって登場する平岡、三千代、父、兄嫁、兄など、相手によって違う顔を見せる代助にも注目したい。

さらに、日替わりゲストの登場シーンは、演じる俳優によって全く違うものになっている。ゲネプロでは寿里の自由さに笑いが起きていたが、松本寛也(9日)、加藤良輔(10日)、佐藤貴史(11・12日)、宮下雄也(13日)、米原幸佑(14日)とこれからのゲストもかなり濃厚。期待したい。

親のすねをかじった生活や親友の妻との不倫など、どこか筋の通っていない印象のあった代助。しかし平野はそこをひとつ新鮮な切り口で演じていたように感じたし、それが原作の描く世界に新たな景色を生んだように思う。“文劇喫茶”の名の通り、文学好きも演劇好きもぜひ新しい世界を体験して!

公演は5月14日(日)まで。

取材・文:中川實穗