<<2011年7月の僕のスタジオから/水戸での展示を経由して2012年7月の横浜へ>> 2006-2012 (C) NARA Yoshitomo
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私たちは、その後、幾つかの部屋を通過して、最後の部屋に辿り着く。その部屋には、巨大な絵画が三点だけかけられている。目の前の壁。左の壁。右の壁。それぞれ一点ずつ在る。たとえば、それは、何か仏像のような配置をも想起させる。どの絵も、少女の顔を真正面から捉えている。しかし、シンメトリーではない。左右正対称ではないことをあからさまにしている絵が右に在る。左にある絵はなんと「未完成」と記されている。

真正面にある絵は『春少女』と題されている。いささか乱暴な言い方になるが、誤解をおそれずあえて断言しよう。この『春少女』に遭遇することだけでも、観覧料1100円の価値はある。

 
会場風景
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そこに在るのは、あらゆるものを超越した顔だ。見つめる/見つめられるの次元に回収されない顔。試しているとか、挑発しているとか、そういう「問い」ではない顔。受容しているとか、赦しているとか、そういう「慈悲」ではない顔。よろこびとか、むなしさとか、きびしさとか、やさしさとか、そういう名づけようのあるものではなく、まだ、誰も形容したことがない、形容するべき言葉が見当たらない顔が、そこには在る。ただ、輝いている。『春少女』の髪も、服も、瞳も、すべて鮮やかに輝いている。

なににも寄りかからず、輝いている。なににも頼らず、輝いている。

あえて、記者会見での奈良美智の言葉を引用しよう。私たちが、もっともっと、自由に、この絵を受けとめるために。

会場風景
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「もう、作品さえ在ればいいんじゃないかと思うようになりました。『君や 僕に ちょっと似ている』という題名のなかには、実はオーディエンスも、作者自身も、介在していなくて。自分が遠くに行けば行くほど、作品は観ようとしている人に迫っていくんじゃないか。僕が見えないくらい遠くに行ってしまうほどに、作品は観ようと人の前に、どんどん迫っていくんじゃないか」

 

 


会場風景
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『奈良美智:君や 僕に ちょっと似ている』
[ http://www.nara2012-13.org/ ]

開催中~9月23日(日)まで 横浜美術館