●豪華なアンサンブルキャストの妙に酔う

「黄金を抱いて翔べ」
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大阪に本店を置くメガバンクの地下に眠っているという、240億円相当の金塊。これは、その金塊を強奪する計画を企てた6人の男たちの物語です。

寡黙さのなかにワケありの過去を匂わせる実行犯の幸田に、『悪人』とはまた違うベクトルの暗さを内包させた妻夫木聡。リーダーの北川には『バトルシップ』などハリウッド映画でも順調な活躍を続ける浅野忠信。これまでの出演作で最もオシャレとは程遠い角刈りのヘアスタイルで頭の切れる肉体労働者を演じ、犯罪が日常のような底知れぬ軽さと怖さを漂わせています。唯一、関西弁を話す人物であり、メガネとちょろりと長い後ろ髪がすでに胡散臭いシステムエンジニアにもはや井筒組の常連ともいえる桐谷健太、ギャンブル依存症でリストカッター、何をしでかすのかわからない春樹に、ドラマ『蜜の味』でも狂った役柄を密かに好演していた溝端淳平。そして、相談役でもあり、侵入するビルのエレベーターについても精通している、一筋縄ではいかないジイちゃんに西田敏行。誰ひとり欠けても決して成立しないこの“黄金チーム”にチャンミンが加わります。

●モモという役柄に哀しさを吹き込んだチャンミン

今回、チャンミンが演じたのは、爆破工作のエキスパートであり、北朝鮮の国家スパイでもあるチョウ・リョファン。モモというニックネームで呼ばれ、東京で出会った幸田に誘われて強奪計画に参加することになります。

実はそれぞれが過去と事情を抱え、チームとして金塊を狙いながらも、誰が信用できるのかさえはっきりしない6人の男たち。国からは裏切り者扱いされ、兄を殺さなくてはいけないほどの極限の状態に追い込まれた哀しい青年、モモが、バランスを欠いたそんな男たちの関係性のなかで、どんな変化を遂げていくのか。それこそがこの映画の、観る者の心を揺さぶる大きな見どころになっています。

●次第に深まっていく、妻夫木聡演じる幸田との絆

監督も含めた作り手のなかには“スタッ腐”はいなかったと予想されますが、そこはかとなく漂う男たちの“友情を超えた愛情”のかたちは、原作自体に色濃く描写されています。
そして原作よりも描写が控えめだからこそ、観る者の妄想を刺激してくれるのもまた事実。幸田とモモが自らも気づかないうちにかけがえのない存在になっていくことが、さりげないシーンから伝わってくるのです。

幸田がモモの頭をくしゃっとするシーン、これまでは家族を捨て、国家のために生きてきたモモが「人に誘われたのははじめてだから」と語る言葉――。あからさまな描写ではなく、ささやかな視線の動きや目の奥に宿る哀しさや慈しみのニュアンスのある表情が、何よりも幸田とモモの関係性を物語っています。