『樹海 -SEA of THE TREE-』舞台写真 (撮影:伊東和則) 『樹海 -SEA of THE TREE-』舞台写真 (撮影:伊東和則)

TEAM NACSが所属する芸能事務所・クリエイティブオフィスキューの会長であり、北海道発のバラエティ番組『水曜どうでしょう』の“ミスター”としても知られる鈴井貴之。彼が2年ぶりに作・演出を手がける舞台『樹海 -SEA of THE TREE-』が、10月6日、東京・ル テアトル銀座 by PARCOにて初日の幕を開けた。

それぞれの事情を抱え、樹海へとやって来た4人の自殺志願者たち、佐々木(岡田達也)、リエ(佐藤めぐみ)、齋藤(井之上隆志)、高橋(石井正則)。偶然同じ場所で出会った彼らは、自分こそここで死ぬのだと、お互いに譲る気配がない。そこでこの場所で死ぬのに最もふさわしいのは誰か、それぞれが自殺を決意するに至った経緯をプレゼンすることに。

自らの命を絶つため、年間数百もの人々が訪れるという樹海。そんな樹海を舞台にしながらも、ステージ上で繰り広げられる4人のやり取りは、どこか間が抜けており、滑稽である。それは彼らが各々の人生にうちひしがれてはいるものの、どこかに人間くささを残しているからではないだろうか。“死”を望みつつも、自らの思いを吐露することで露わになっていくのは、“生”に対するどうしようもないほどの執着。鈴井はそういった情けなくも愛おしい人間のあり様を、ふんだんに笑いを盛り込みつつ、丁寧に描き出す。

女性ならではの苦悩にさいなまれながらも、それゆえの強さも見せる佐藤。栄光と転落を味わった男の傷を、ひょうひょうとした佇まいのなかににじませる石井。最も現代的とも言える自殺志願者のむなしさを、緩急のついた演技で表現する岡田。そしてベテランの井之上が、絶妙な笑いのセンスと高い演技力で、作品にしっかりとした厚みを加える。井之上演じる齋藤の自殺理由は、ほかの3人に比べると非常に異質なものである。しかし時折見せる悲哀の表情、そして彼の存在そのものが、役に対する説得力、さらには本作のメッセージ性を揺るぎないものにしていた。

樹海のキツネ役として、鈴井自身も舞台上に登場。観客の笑いを誘いながら、時にその言葉は人間である私たちをドキリとさせる。動物から見れば、樹海に踏み込んできた人間たちは、非常に愚かで勝手な生き物かもしれない。だがそんな人間たちにも、光は必ず差す。そこでどんな一歩を踏み出せばいいのか、それを考えることができるのも、また人間であるはずだ。

10月11日(木)までル テアトル銀座 by PARCOで上演された後、10月13日(土)・14日(日)に愛知・名鉄ホール、10月20日(土)・21日(日)に大阪・イオン化粧品 シアターBRAVA!にて公演が行われる。取材・文:野上瑠美子