左から吉野圭吾、謝珠栄 (撮影:西村康) 左から吉野圭吾、謝珠栄 (撮影:西村康)

オリジナルミュージカルの企画・製作に意欲的なTSミュージカルファンデーションが、11月に新作『客家 ~千古光芒の民~』を上演する。日本の観客に今、何を伝えたいのか。稽古場を訪れ、同団体の代表である振付家/演出家の謝珠栄と出演者の吉野圭吾に、意気込みを訊いた。

客家(はっか)とは、古代中国の王族の末裔と言われる人々で、土地を持たず、戦乱を避けて移動と定住を繰り返した歴史を持つ。これまでも作品を通して民族や領土の問題と向き合ってきた謝が、今回は〈アジア四部作〉の締めくくりとして、自らのルーツである客家をモチーフに選んだ。「来年米寿を迎える父のために、彼が生きた証を形にしたいなと。客家の人々の精神を伝えたかったんです」。

南宋末期、モンゴル帝国に攻め入られ、滅亡へと向かう中、民族の誇りを大切にした忠臣・文天祥の生き様が描かれる。演じるのは、謝作品には5度目の出演となる吉野だ。「優秀な人物をいかに説得力をもって演じられるか。課題は大きいですけど、謝先生の舞台は、共に闘いながら作っていくところに面白さを感じます」と言う吉野に、「確かに、熱量や気力を要求するから、草食系には務まらないわね」と笑いながら謝が同意する。

客家の男性を“風”に例えるなら、その風によって運ばれてきた種子を育てる“土”が客家の女性。文天祥に妹・文空祥がいたというオリジナルの設定は、この作品のポイントといっていい。「お嫁さんにもらうなら客家の女性がいい、と言われるほど、みんな強くて優しくて、働き者。女性抜きで客家は語れないんです」(謝)。「演じる水夏希さんとの兄妹関係はすごく大事だと思います。同じ志をもって向かい合いたいですね」(吉野)。

「役者という仕事は客家の精神に通じる」という吉野の視点がユニークだ。「現場でしっかりとひとつの作品を作り上げ、また次の現場に移る。義を尽くさなければならないし、順応性も要求されますから」。このカンパニーのストイックな姿勢と、物語に込められた熱い想いが、緩み切った現代日本に投げかける意味は大きい。「忠義、恩義、正義を大切にする客家の人々の絆の強さ、そして人情の厚さ。“守るべきもの、それは人の心”という言葉がチラシにも書かれていますけど、今回伝えたいのは、まさにそれです」という謝の言葉が印象的だった。

TSミュージカルファンデーション オリジナルミュージカル『客家 ~千古光芒の民~』は、東京・天王洲 銀河劇場にて11月9日(金)から18日(日)まで上演される。兵庫公演あり。チケット発売中。