このように、挙げていくとキリがないんですがaikoの変な曲。例えばシュガーベイブとかユーミンとか、またはドリカムとか、日本の良質な大衆音楽がルーツに見え隠れしながらもそのどの要素も呑み込んで、むしろジャズもモータウンもビートルスもぜんぶ吸収しながらぽっこり飛び出したJ-POPの突然変異、それがaikoだと思うのです。で、そのヘンさ加減って、彼女の作曲方法に他ならないのではないかと推測する。

彼女のこれまでのインタビューをみていると、作曲はピアノ。そして詞先が主。というか、詞が浮かんだらバーっとメロディも浮かんで一気に作る、ということが多いようです。どうりであのコード感のなさというか、ギターで拾いづらそうなコードというか、ピアノで曲づくりをするひとっぽいメロとコードの奔放さ。aikoのライブ「Love Like Pop」シリーズでは必ずソロ弾き語りのコーナーがあるんですが、「客席からキーワードを集めてそれを全部使用する」というルールで即興ソングを歌うことが多い。最近わたしが見に行ったライブでは「先生」「看護士」「彼氏の声」「口内炎」「うんこ」「茨城」などなどのキーワードを見事に消化してミドルテンポの素晴らしい名曲を瞬時に作り上げていました。まじそれそのままリリースできるんじゃないの? レベルの名曲ぶりで、改めてそのメロディメイカーとしての多彩さ豊かさそして頭の回転の速さに驚かされた。実際に客席から「リリースして!」の声もあがるんですが、aiko本人は「もう忘れてもーたわ(笑)」と笑うばかり。瞬時にあれだけの名曲を弾き出しておきながら瞬時に忘れるって、まあそれが即興ソングの醍醐味ではありましょうが、つまり、あの程度の手癖コードではaikoにとって発表するに値しないものなのだなぁと感動した覚えがあります。しかも、これ全国毎公演やってるからね。てか地方のライブは見てませんが、少なくともわたしが見た東京公演は2回ともやってました。もちろんキーワードはそれぞれバラバラです。だから、aikoのライブに行くと、彼女のパフォーマーとしての素晴らしさにも感動しっぱなしなのですが(優れたエンターテイナーであり、コミュニケーションの何たるかを本能で熟知してるひとだなぁと思います。あれは何度もリピートしたくなるライブ!)、ああやって実際に曲作りの瞬間を目の当たりにすると、シンガーソングライターとしてのaikoの才能の壮大さにくらっくらする。あれみるとほんとaiko天才だと思う。言葉とメロディが同時に、しゃべるように紡がれていく。

要するに、aikoの作曲方法でもっとも大事なのは節回しなんじゃないのかな、と思うのです。曲ありきで歌詞をつくっていくのではなく、歌詞の抑揚=感情表現がそのままメロディに昇華されていく。だから言葉がちゃんとメロディに乗って跳ねている。なんならたまにメロディとコードがぶつかり合ってるけど、それは「感情の幅」の演出として理解せざるを得ない説得力がある、ような気がする。まぁさぞかしアレンジが大変なんだろうなぁと思いますが、コード論とかの論理思考から解放された自由な感情の羽ばたきが、aikoの音楽を生み出すような気がするのです。その自由さが、「複雑なコード」や「謎の転調」につがなっているような気がしてならないのです(「ピアノを使わず鼻歌で作った歌はどんどん転調して訳わからない。あとからコードやキーを取るのが難しい」「(蝶々結びのサビで)“なんでここでこんなに転調したの?”って聞かれるんやけど、無意識の転調なのでいつも“わからん”って答えてました(笑)」とaiko本に載っている)。もちろん、歌手生活を10年も続けてて今更「コードが全然わからない」であれだけのヒット曲を量産できるとは思えませんが、でも「ここは4-5-3-6の黄金進行で!」みたいな作為は、aikoの曲には皆無なのではないかと…。と、言いつつ『夢の中のまっすぐな道』のインタビューで「昔のようなかわいい曲もまた作れるようになってきた」という発言があったり、最近の曲の、コードに対するメロディの感じ、歌詞の乗り方、声の出し方、などなどなど、そりゃあもうずいぶんずいぶん変わってきたと思うし、ウレぴさんどうですかここらでaikoに真面目な音楽的インタビュー!まじで!懇願!

現在はスタンディングライブ「Love Like Rock」シリーズで全国をまわっているaikoさん(くやしながらチケット争奪戦で敗北しました…)。もうずーっと、ロック、ポップ、追加、ポップ、カルピスライブ、ロック、みたいな感じでライブやってるけど大丈夫かアルバム出るのかなどと勝手な心配もしていましたが、『BABY』も「恋のスーパーボール」も素晴らしかったし、なによりずっと「出さない」と豪語していたベスト盤が“シングルを全部収録しただけ”みたいな安直なベスト盤でなく、新録/新ミックスを含めアルバムやカップリングから選曲された曲並び。あれはまさに、LLPでありLLRだと思う。つまり、ライブに来てるファンへ向けた愛情表現と思えるのです。てか実際に聴いてみて、見えたよわたしは、武道館で、NHKホールで、ZEPP TOKYOで、横浜アリーナで、歌って走って飛び回ってるaikoの姿が。

「毎日ふつうに家に帰って、お風呂に入って、ご飯を食べるという生活が、いかにすごいことかっていうことを改めて感じたし、この会場でみんなと会えたのも奇跡みたいなもんだと思うし、またこの会場にいるひとりひとりと、奇跡とか、とんでもないすごいことをいっぱいいっぱい作っていけるように、私もこれから先、一生懸命がんばりたいと思います。なので、みんなも絶対にがんばっていこうね」

震災の影響もあり、中止の可能性もはらんでいたLove Like Pop vol.14。その、7/16@NHKホールでaikoがゆっていたこと。aikoというひとは、あれだけ才能があって、出す曲出す曲ヒットチャートの最前線に登場していながらも、常に自分の歌を届けられる奇跡を痛感しているのだろうなあと思う。だからこそ、きちんと生で、ひとりひとりと向き合う実感が持てるライブを、ここ数年ずーっとずーっと続けているんだろうなぁと思います。年々、ファンクラブに入っててもチケットが取りづらくなってきてるけど、それもそんなaikoの努力と魅力の賜物だと思うし、何よりも、ライブで、生で、その場所でしか生まれないグルーヴをお客さんと一緒に作ろうとするaikoのライブだから、何度でも行きたいし、これからもチケット争奪線がんばろうと思うのです。「ひとりひとりの人に、ちゃんと歌を届けたいと思います」ってaikoが毎回言うのがわたしはうれしい。

とにかく、aikoおたんじょうびおめでとう!!!! (今回言いたかったのはこれだけ!)