『PRICELESS』でも、こうした撮影方法は使われている。たとえば初回では、情報漏えいの罪を着せられた金田一(木村拓哉)が社内の人間から白い目で見られるシーンで、社員の目だけを極端にアップにしたカットが立て続けに挟まれていた。へんに社員にヒソヒソ話をさせるよりも、これはよっぽど効果的だった。金田一が家も無くし、公園で一夜を明かすシーンでは、真上から撮ったアングルで徐々に引いていくズームバックを使っていた。それだけで金田一がすべてを無くし、孤独になったことが表現されていた。

ただ、『PRICELESS』をよく見ていると、そういう撮影方法があまり多くない回もある。それは鈴木雅之が演出を担当していない回だ。通常、複数の演出家で連ドラを撮る場合は、チーフの色に他の演出家が合わせて撮ったりする。でも、もともと共同テレビには各演出家の個性を尊重する傾向があって、昔はひとつのドラマでも別の作品のように見えることすらあった。今回は組んでいるのが同じ共同テレビ出身の平野眞(現在はフジテレビ所属)ということもあって、極端にチーフに合わせにいったりはしていない。だから、ドラマをよく見ていれば、エンディングのクレジットを見なくても鈴木雅之の演出か、平野眞の演出かが分かったりするので面白い。

■セットでもかもし出されるドラマの世界観

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個性のあるドラマは、その作品の世界観がしっかりと作られているものだが、鈴木雅之はそんな世界観を作るのもうまい。

『ショムニ』などはいい例で、坪井千夏(江角マキコ)、宮下佳奈(櫻井淳子)、徳永あずさ(戸田恵子)、日向リエ(高橋由美子)、丸橋梅(宝生舞)、塚原佐和子(京野ことみ)といったキャラクターをしっかり描き分け、元は備品倉庫だった地下にある総務部庶務二課の部屋をドラマのシンボルのような場所として作り上げた。そういう世界観がしっかりしていたからこそ、3度の連ドラと3度のスペシャルというシリーズ化にも耐えうる作品になったんだと思う。

そういえば、『PRICELESS』で彩矢(香里奈)が会社を解雇される前に飛ばされた社史編纂室は、庶務二課の部屋に雰囲気が似ていた気がする。

『PRICELESS』では、一厘(夏木マリ)が管理する幸福荘というボロアパートが出てくるが、この作品ではあのアパートが効いていると思う。ドラマが始まる前、木村拓哉がすべてを失って極貧生活を送るという設定に、正直やや不安があった。でも、幸福荘をああいうテイストで作ったおかげで、金田一の極貧生活も、そこからの巻き返しも、何となく納得できるものになった。6話終了時点では、彩矢も模合(中井貴一)も幸福荘のひとつの部屋に住み、そこを拠点に活動している。そういう意味でも幸福荘という舞台は、ドラマの世界観をしっかり支えていると思う。

幸福荘には、萌(小嶋陽菜)、豪田(酒井敏也)、大島(渋川清彦)という人たちも住んでいるが、これらの住人は残念ながら本筋に絡んでくる登場人物ではないようだ。それでも路上アイドルという設定の萌は、彩矢にコスプレをさせたりして地味なキャラクターを広げる役割を果たしているので、面白いアクセントになっていると思う。ちなみに、萌は部屋の中でも靴を履いているが、これは日テレ系で放送中の『メグたんって魔法使えるの?』を見ていると、まったく違和感がない。もう小嶋陽菜は、ブーツまで含めて足という認識でいいのかもしれない。