番外編:コンペティション部門以外で、推しの作品は?

本来なら「コンペティション部門」 の見どころや注目作をプログラミング・ ディレクターの矢田部氏に聞くレポートはここで終了の予定だったが、せっかくなので、「ワールド・フォーカス」「アジアの風」「 日本映画スプラッシュ」の注目作も教えていただいた。 併せて参考にしてください。

『サッドヒルを掘り返せ』 ©Zapruder Pictures 2017.

“ ザ・聖地巡礼”の映画『サッドヒルを掘り返せ』

まずは「ワールド・フォーカス」から。 ここで矢田部氏がチョイスしたのはスペインのドキュメンタリー映 画『サッドヒルを掘り返せ』だ。

「これは往年の映画ファンにはたまらない作品です。『続・ 夕陽のガンマン』(66)で主演のクリント・ イーストウッドらが決闘する、 有名なラストシーンで使われた墓地のセットがスペインの山奥にそのまま残っていて。

そのことを知ったファンが土の中からその墓のセットを掘り起こす ために世界中から集まり、どんどん広がるその運動が映画の制作5 0周年イベントに結びついていく過程を『続・夕陽のガンマン』 の音楽を手がけたエンニオ・モリコーネらスタッフの裏話や証言を 絡めて見せていくんです。

でもそれが、 映画の舞台裏をただ単に紹介するものに留まっていなくて、 最後にはリアルタイムの感動が待っているんですよね。 映画ファンの夢と希望をすべて乗せた、 こんな映画愛が駄々漏れしている作品はそうそうお目にかかれない と思います。

日本でも『君の名は。』 をはじめとする映画の聖地巡礼が最近流行ってますけど、これこそ“ ザ・聖地巡礼”の映画です」

『Have a Nice Day』©2017 Nezha Bros. Pictures, Le-Joy Animation Studio

タランティーノや北野武の映画を彷彿とさせるテイスト『Have a Nice Day』

「ワールド・フォーカス」からはアジア映画をもう1本、 今年のベルリン国際映画祭のコンペティション部門で中国アニメ初 の入選作として話題を集めた『Have a Nice Day』も選んでくれた。

「中国ノワール・アニメで、クエンティン・ タランティーノや北野武の映画を彷彿とさせるテイストなんですが 、これはめちゃくちゃ面白いです」

『ポーカーの果てに』©Bluff Films

1室だけで見せるワンシチュエーションドラマ『 ポーカーの果てに』

という流れから、「アジアの未来」の1本はトルコ映画の『 ポーカーの果てに』。

「4人の男がポーカーをするためにアパートの1室に集まるんです が、外では反政府デモが行われていて、 いろいろな人たちが部屋に出入りするんです。

その様子をその1室 だけで見せるワンシチュエーションドラマなんですが、 脚本が見事で、一瞬たりとも飽きない。 まるで舞台劇を観ているような面白さがありますね」

『アイスと雨音』 ©「アイスと雨音」実行委員会

攻めの青春映画『 アイスと雨音』

そして、最後の「日本映画スプラッシュ」は松居大悟監督の『 アイスと雨音』を強力にプッシュ!

「この作品にはビックリしました。 松居大悟監督は昨年のコンペで『アズミ・ハルコは行方不明』( 16)を上映しましたし、 今回の作品はスプラッシュに相応しい青春映画だったので、 こちらのプログラムで紹介することになりましたが、 彼はやっぱり才能があるなと改めて思いました。それに、 攻めている。期待してもらいたいですね」

さあ、欲張りのレポートもこれで本当に終了。 自分のスケジュールをやりくりしながら、 少しでも多くの作品を観て欲しい。

観れば観るほど感動と充実感が膨れ上がるはずだし、TIFFの面白さがどんどん分かってくるはずだから。

映画ライター。独自の輝きを放つ新進の女優と新しい才能を発見することに至福の喜びを感じている。キネマ旬報、日本映画magazine、T.東京ウォーカーなどで執筆。休みの日は温泉(特に秘湯)や銭湯、安くて美味しいレストラン、酒場を求めて旅に出ることが多い。店主やシェフと話すのも最近は楽しみ。