『家族ゲーム』
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映画では吉本が女性(阿木燿子が演じていた)と過ごしているシーンがあったり、全6話のTBS版では吉本が住むアパートが出てきたりもしたが、もともとこの吉本という家庭教師は、三流大学に7年も通っているということ以外、私生活は不明で、どこから来て、どこへ行ったのかも分からない存在だった。それがフジテレビ版では、じつは吉本は“東大卒の吉本”を名乗っているだけで、本当は“田子雄大”という名前の元・中学教師であることがすでに語られている。

また、本物の吉本は田子の元同僚で、現在は病院で生命維持装置に繋がれている状態であることも描写されている。第8話終了時点ではまだすべてが明らかになっているわけではないが、この田子の過去が、沼田家における吉本=田子の言動の理由づけになることは間違いない流れだ。

原作でも、吉本の目的がまったく描かれていないわけではなかった。原作では終盤に「失敗だった、おれのやり方は、……おれは、やっぱり、受け入れられなかったんだなあ」と吉本がつぶやくシーンがある。さらに、「一時的に強制しても、同じことなんだなあ。……結局、家庭という枠のなかでね、それぞれの人たちが、互いに作用しあって、生きてきて、その結果、茂之君が今のように育ってきたわけなんだから」というセリフもある。つまり、吉本はどこかで茂之が、そして沼田家が変わることを期待していたけれど、結局、変わることはなかったことを嘆いているのだ。

茂之も沼田家も、結局は変わらない。今回のフジテレビ版では、この部分が第8話のラストで描かれた。となると、はたしてフジテレビ版の結末はどういうものになるのだろうか。
 

はたして救いのある結末になるのか?

今回のドラマの第8話では、株で大損した母親の借金返済のために父親が会社の金を横領し、それがバレて会社をクビになった。母親は長男の慎一が万引きしていたことを知りながら、何も言えなかったことが慎一自身にバレた。そして、茂之は、自分をイジメていたグループのリーダーを、今度は自分がイジメてしまった。こうして、沼田家は完全に崩壊するのだが、吉本=田子は、これまで自分が沼田家に仕掛けてきた内容を明かした上で、この家は壊れるべきして壊れたのだと言い放った。その後に展開された家族全員が家の中をメチャクチャにしていくシーンは、映画版の有名なラストを彷彿とさせるものだった。

映画版では、茂之の受験が終わったあとに、食卓がメチャクチャになるシーンがあった。普通に食事をしているシーンから徐々にテーブルの上を食べ物が飛び交い、兄弟がケンカを始め、松田優作が演じる吉本が家族全員をぶん殴り、最後はテーブルをひっくり返してどこかへ去って行ってしまう。それでも沼田家には、またぼんやりとした日常が訪れるというシュールな終わり方だった。

ちなみに、全6話のTBS版にはそういうシーンはないが、茂之が合格した高校へ登校しようとすると、団地の屋上から高校生が飛び降り自殺するというショッキングなシーンが付け加えられている。そして、茂之はその光景を一瞥しただけで学校へ向かってしまう。茂之が吉本によって受験戦争に勝つというストーリーを示しながら、茂之の本質は何も変わっていないことを象徴するようなラストだった。