この12月に発表された「女子中高生ケータイ流行語大賞2011」、大賞には“リア充”が輝いた。リア充とはリアル(現実生活)が充実している人を指し、以前からネット界隈で多用されていた言葉だが、ついに若い女子層にも浸透してきたようだ。

呼ばれる忘年会の多さ、クリスマスの予定、家に届く年賀状の枚数……年末年始はリア充かどうかが問われやすい時期。今回はリア充っぽくない生活を嘆く男性諸氏に向けて、非・リア充の極みにあるダメダメ主人公の漫画を紹介してみたい。

【その1】沈黙の話題作『ラブやん』(作:田丸浩史)

二十代半ばにして「ロリ(ロリコン)・オタ(オタク)・プー(無職)」の三重苦を背負った青年の元に、突然現われた“愛のキューピッド”ことラブやん。モテない人間に恋人を作ることが生業のラブやんは、このダメ青年・カズフサにさまざまな女性へのアタックを勧めるが……。

別時空の住人が不思議な能力やアイテムを駆使してダメ主人公を救おうとする展開は『ドラえもん』に通じるものがあるが、この作品は毒の強さがハンパじゃない。ラブやんに「告白したい相手は誰か?」と聞かれ、迷わずカズフサの挙げた第一希望が女子小○生だった時点で、法的にも倫理的にも出版コード的にもかなりアウトである。彼のダメさ加減は、やがてキューピッド界のエリートだったラブやんにも伝染。今ではラブやんも立派なニート仲間になって、ダメ人間なりの生活を謳歌している有様だ。

一般人ならドン引きするシーンも多い反面、特濃なギャグを好む読者には熱狂的に支持されている本作。あらゆるメディアに存在を黙殺されながら10年以上も元気に連載を続けている。また、美人女神たちに囲まれた定番のリア充漫画『ああっ女神さまっ』と同じ雑誌で連載されているのも興味深い。


【その2】引きこもりジュブナイル『NHKにようこそ!』(原作:滝本竜彦 画:大岩ケンヂ)

大学中退して引きこもる22歳の青年・達広。対人恐怖症と幻覚まで併発した彼はNHKを「日本ひきこもり協会」と思い込んでしまうほど。そんなある日、宗教の勧誘に訪れた美少女・岬と出会い、彼女の怪しげな“カウンセリング”に巻き込まれていく……。

のっけから『ラブやん』とは別方面に暴走する主人公が(ある意味)最大の見どころ。物語が進むにつれて別の性癖も身につけてしまい、笑えないレベルまでダメ人間になってしまう。ただストーリー性は意外にも高く、電波系少女の岬ちゃんや学生時代の先輩後輩、実家の母親などと触れあいながら、不器用なりに社会復帰への道を模索していく主人公の姿には共感をおぼえる。好き嫌いは分かれそうだがジュブナイル作品として読み応えのある一作だ。

ちなみに出版元からもほぼ黙殺されている『ラブやん』とは異なり(人気と売れ行きは高いらしいが)、こちらはメディアミックスも盛ん。そもそもコミック版は角川書店の小説が原作であるし、2006年にはTVアニメ化もされている。


【その3】伝説の妄想マイスター『妄想戦士ヤマモト』(作:小野寺浩二)

いついかなる時も、ラブコメやギャルゲーのような“萌えシチュエーション”を妄想し続ける学ラン少年・山本の熱い生き様を描いた異色ギャグ漫画。脇役としてフィギュア萌え、メガネ萌え、巫女さん萌えといった何かと濃いメンバーが彩りを添える。

先に出た2作品と似て、およそリア充とは対極にある変態系の主人公だが、彼らには真人間に戻ろうという気配はまったくない。むしろ妄想を極めた者は「妄想戦士」「妄想騎士」など一部で賞賛され、周囲のオタクから萌えパワーを集めれば巨大なエネルギー弾を撃てるような、ギャグ漫画ならではの突き抜けた世界観となっている。

各エピソードも「獣耳少女にかけさせるメガネを開発する」「真の巫女さんを探求する」など、馬鹿馬鹿しくありながらも某プロジェクトXを思い出すような、どこかストイックな真面目さに満ちている。エンターテイメント作品の安直なエロス描写を否定し、恥じらう美少女の表情にこそ萌えるべきだ――と命がけで叫ぶ山本の姿は、神々しく感じるほど。もしエンタメ系の仕事で“萌えとは何か?”を学ぶ必要に迫られた人は、ぜひこの漫画を読んでほしい。得られるものは大きいはずだ。


……以上、リア充な生き方に背を向け、むしろ後ろ向きに全力疾走するダメ男たちの物語を紹介した。これを読んで「自分よりダメな奴もいるんだな」と安心するも良し、「こいつらのようになるまい」と努力するも良し、「こういう生き方もあるんだな」と趣味にとことん走るも良しだろう。 

パソコン誌の編集者を経てフリーランス。執筆範囲はエンタメから法律、IT、教育、裏社会、ソシャゲまで硬軟いろいろ。最近の関心はダイエット、アンチエイジング。ねこだいすき。