ソウルの下町でフライドチキン&ビール

乙支路3街駅から500メートルほど北上し、鍾路3街駅から地下鉄1号線に乗って東方向に15分ほど進み、6駅目の清凉里(チョンニャンニ)駅で降りる。

ここはソウルの東の玄関口。東京でいえば上野駅のような存在だ。

駅の近くにはおしゃれとは縁遠い食堂街や市場が広がっている。数年前までソウルでも有数の風俗街があった。

鍾路や乙支路など旧市街の中心部には今も西洋的な洗練とアジア的な生活感が共存しているが、ここ数年の再開発で西洋的洗練が優勢だ。しかし、清凉里まで来ると、ソウルが紛れもなくアジアであることが実感できる。

地下鉄駅の北側に広がる市場には、フライドチキンの専門店が点在している。いや、フライドチキンではない。トンタクだ。トンタクとは鶏の丸揚げのこと。

私が子どもの頃は、市場の鶏屋で生きた鶏をさばいて丸揚げしたものを母に買ってもらい、家で夢中で食べたものだ。

「南原(ナモン)トンタク」のフライドチキン小16000ウォン。ヤンニョムチキン小は18000ウォン。ビールは4000ウォン

チキン大国韓国では、韓流スターがCMに出るような大手宅配チェーンから個人経営の小さなチキン店まで業態は多彩だ。

ここ清凉里の伝統市場にあるチキン店は中高年の主人が切り盛りする店がほとんど。店先で揚げたものをテイクアウトしたり、店内でビールとともに食べたりする。

先日、私が入った「南原(ナモン)トンタク」もそんな店のひとつ。話し好きな女将のおしゃべりを聞きながらチキンとビールをいただいた。

この女将なら、たとえ言葉の通じない日本の旅行者でもかいがいしく世話を焼いてくれるので、楽しい時間を過ごせるだろう。

クラフトビールを買ってホテルで部屋飲み

コンビニの冷蔵庫には缶のデザインも洒落ているクラフトビールがいっぱい

20年くらい前まで、カフェでエスプレッソを注文すると、店員が「エスプレッソは量が少ないんですけど、大丈夫ですか?」と聞かれるようなコーヒー発展途上国だった我が国だが、今ではカフェ大国と呼ばれるくらいコーヒーも店もスイーツも多様に発達している。

ビールは15年くらい前は、スーパーやコンビニの冷蔵庫に国産品と外国産品が6~7種類しか並んでいなかったが、今では国産品だけで20種は下らない。

鍾路3街、梨泰院、江南などソウルの繁華街には手製麦酒(スジェメクジュ=クラフトビール)の専門店もできているが、けっして安くない。

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  • 「一字山酒幕」の豆腐キムチ
  • 「一字山酒幕」の干し鱈(手前)
  • 「一字山酒幕」のビニールハウス(初夏)
  • 「一字山酒幕」のビニールハウス(秋)
  • バギー車の後部に掲げられた、マッコリ酒場「一字山酒幕」(通称)の案内看板。正式な店名は「一字山カフェ」(秋)
最近はソウルだけでなく、地方にもクラフトビールの専門店ができている。写真は慶州(キョンジュ)で土日だけ営業する「weekend common」でくつろぐ筆者

飲み歩きの〆に個性的なビールを選びたいなら、宿の近くのスーパーなどでクラフトビールを買って、部屋でゆっくり味わうといいだろう。

鄭銀淑:ソウル在住の紀行作家&取材コーディネーター。味と情が両立している食堂や酒場を求め、韓国全土を歩いている。日本からの旅行者の飲み歩きに同行する「ソウル大衆酒場めぐり」を主宰。著書に『美味しい韓国 ほろ酔い紀行』『釜山の人情食堂』『韓国酒場紀行』『マッコルリの旅』など。株式会社キーワード所属。