別れのキスはするのか、しないのか

撮影/稲澤朝博

――撮影をしていて印象に残っているシーンはありますか。

綾野:佑くんとは何度か共演していますが、実質、向き合っての共演は初めてでした。佑くんから「自然に溶け込めた」という言葉をいただいたときに、同感でした。

自分が出ていないシーンは客観的に観られたので、情感を揺さぶられる場面がたくさんありました。特に、伊関と祥子が別れを前にする最後のシーンは、何もない部屋で、肉体の塊として会話をしているというか。実際セリフはないんですが、会話が聞こえてくる。息をするのも忘れて見入ってしまいました。あのシーンはものすごく鮮明に残っています。

柄本:あのシーンの裏話的なことを言うと、前日の撮影が終わったあとに荒井さんが控室に来たから「明日のこのシーンのことなんですけど……」って質問をしたんです。あのシーンだけ、珍しく脚本にト書きが少なかったから。

他のベッドシーンに関しては、前戯から挿入のタイミング、そこからどういう流れになるかまで、セリフと同じような感じで細かくト書きが書かれていたんだけど、あのシーンだけそれがなかったから、「キスはするんですかね?」って訊いたら、「難しいことを聞くなぁ」って返されて(笑)。

そこから、別れのキスはするのか、しないのか、ということを、さとうさんとインティマシー・コーディネーターの方も一緒になって考えたとき、さとうさんは「最後のセックスでしょう? とりあえず思い残すことがないくらいキスするんじゃないかな?」とおっしゃって。

そしたらインティマシーの方も「別れのセックスシーンはキスをする気がする」とおっしゃって。それで、あそこは祥子が初めて伊関とのセックスでエクスタシーに達するという瞬間でもあるんですけど、そのあとキスをするという流れになりました。

撮影/稲澤朝博

――柄本さんが印象に残っているシーンはありますか。

柄本:僕は最終日に撮影した地獄の14ページ。セリフが出てこなくて。綾野さんにずっときゅうりの入った水をガバガバ飲ませてしまって(苦笑)。申し訳ないなと。あのきゅうりも食べるようにって言われているんだけど、水を含んでいるから美味しくなくて(苦笑)。その都度、ホッケも食べたり、「本当にすいません!」って思いながら、最終日にやらかしちゃったなと。

綾野:僕は「終わらなくていい」って。「1秒でも長くこの時間が続け」って思っていたので、全然ですよ(笑)。終わってほしくない現場でしたから。

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――韓国スナックで栩谷と伊関がお酒を飲むシーンですよね。

柄本:そうです。そこに1個、長台詞があって。万葉集の話をするところなんですけど。

綾野:隣で初見で聞いても直ぐに意味が直結しない話だから、あれを自分の言葉で話すってなったら大変ですよね。

柄本:万葉集なんて知らないし(笑)。でも脚本に書いてあるから、荒井さんは万葉集が好きなのかな?って思っていたんだけど、この間、映画祭でこの部分について荒井さんが話しているのを聞いたら、原作の要素を残したほうがいいと思って入れただけで、万葉集のことはよく知らないっておっしゃっていて。

綾野:(笑)。その話、すごく面白い。