きっぱりと引かれた線

「寂しいな、と最初に思ったのは、私が軽く風邪を引いたときでした。

出社はしたけど午前中で熱が上がってしまい、早退して部屋で横になっているって彼に伝えたら、『俺は今日残業だから看病に行けない。自分で何とかして』って返ってきて。

もちろん体調を心配する言葉もあったのですが、私は一言も助けてなんて言ってないし、一晩ゆっくり休んだら回復する程度だと思っていました。

自分で何とかしてって、突き放されたように感じてしまって……」

「体調管理も仕事のうちだよね」と話したことを思い出し、そのときは寂しいけれど「風邪を引いたのは自分が不甲斐ないせいだから」と彼に返信して終わります。

その夜、彼氏は電話をかけてきて、食欲があり熱も下がってきた楓さんの状態を聞いて「気をつけないとね」と言ったそうです。

そんな彼氏のほうは、体調が悪くなってもそれをわざわざ楓さんに伝えることがなく、後になって「この間は頭痛がひどかったのだけど、◯◯って鎮痛剤がよく効いてくれて助かった」と打ち明けられて「言ってくれたらよかったのに」と思うこともあったといいます。

お互いに自分のことに責任を持つ、それが自立なのだと理解してはいるけれど、具合が悪いときまで頼ることをよしとしないような彼氏の姿は、どこかきっぱりとした線を引かれているような感覚がありました。

それでも、楓さんはそれを「この人の強さなのだ」と思い、普段から規則正しい生活をしていることや自分に対して常に誠実であろうとしてくれることを信じていたといいます。