タブレットPOSで業務効率と収益を改善したカフェバー「VANDALISM」

仕入れ価格の上昇や人材不足が続いている。中小規模の店舗は収益とマンパワーの両面で余裕がない中での運営を強いられており、オーナーや店長が自らも現場に出て一店員として働く店も多い。しかし、そこで毎日のオペレーションに忙殺されてしまうと、収益性や顧客満足度の向上といった、経営者でなければできない仕事がおろそかになりかねない。 東京・渋谷でカフェバー「VANDALISM」(ヴァンダリズム)を経営する山口隆実氏(同社取締役)も、かつて雇われ店長として別の店を任されていたとき、この課題に直面していた。閉店時間が遅い飲食店の場合、レジ締めに時間が取られると、店を出るころには終電時刻を過ぎている。漫画喫茶で夜を明かし、自宅に帰らず出勤することもしばしばで、店や自分をどのように成長させていくかを考える余裕はなかったという。

しかし、3年前に独立して開いたこのVANDALISMでは、レジ締めで時間を取られることはなく、確実に終電に間に合うようになった。これを可能にしたのは、タブレットなどのITツールの活用だった。しかも、ITによって仕事が効率的に回るようになっただけでなく、わずかな“気づき”によって導入した工夫によって、売り上げを劇的に伸ばすことにも成功したのだという。

1時間かかっていたレジ締めが最短30秒に

「飲食業界で働く人は良くも悪くも“職人気質”で、料理やサービスに強いこだわりをもっていることが多いと思います。もちろんこれは絶対に大事なことなのですが、それだけに集中しすぎると、“商い”として店をやっているという視点を失ってしまうことがあります。……というと偉そうに聞こえますが、自分もまさにそうだったんです」(山口氏)

山口氏が修業時代に学んだのも、飲食業の基本といわれる「QSC」(Quality:料理の質、Service:接客、Cleanliness:清潔)が中心。レジ打ちや精算といった定型作業については、昔ながらの紙伝票と簡易的なレジスターにしか触れたことがなかった。顧客が店を出るときには伝票を見ながら金額を手打ちしていたので、会計待ちの時間が発生していたほか、打ち間違い、計算違いが発生し、レジ締めに時間が取られることも多かった。

「当時、週の半分は終電を逃して漫画喫茶泊まりでした。まだ駆け出しだったので、『がんばって何とかやろう』という気持ちだけでなんとか店を回してはいたのですが、家に帰れず家族と過ごす時間も取れない働き方を、いつまで続けられるだろうかという思いもありました。ただ、そのときは紙の伝票と古いレジしか見たことがなかったので、何の疑問も持たず、レジ締めはこういう仕事だと思ってやっていました」(山口氏)

その後、独立資金を貯めるため、いったん飲食の現場を離れて会社員生活に移った山口氏は、仕事の中でさまざまなITツールを知る。2015年にVANDALISMをオープンするときは、タブレット用のPOSレジアプリを使うことを決めていた。いくつかの代表的なアプリを比較検討し、山口氏が導入したのはリクルートライフスタイルの「Airレジ」だった。

「Airレジでまず魅力を感じたのは『0円でカンタンに使える』という部分でしたが、それ以外に、予約台帳アプリの『レストランボード』と連携していることも決め手になりました。他のアプリではレジと予約が別のシステムになっているものが多かったのですが、この2つのアプリは予約から会計までを一つの流れで管理できるので、わずらわしい仕事をより減らせると感じました」(山口氏)

VANDALISMでは、顧客からの注文には柔軟に対応しやすい紙伝票を使っているが、作業の合間合間で、注文内容をAirレジに入力している。テーブルごとの合計額がAirレジ側に反映されているので、会計時にレジの前で顧客を待たせることがなく、打ち間違いも大幅に減った。また、クレジットカードや電子マネーの決済にも、Airレジと連携する決済サービスの「Airペイ」を利用し、金額を手打ちする機会を極力減らしている。

閉店後のレジ締めにかかる時間は飛躍的に短縮できた。山口氏は「もう、昔のレジ締め作業とは比較にならないくらいです。30分から1時間くらいかかるのがあたりまえだった作業が、Airレジでは最短30秒です」と説明し、その効果は当初予想していた以上の、圧倒的なものだったと話す。

総席数を減らす施策で、売り上げは倍近くに

店舗経営が軌道に乗り、2年目を迎えようとしていたVANDALISMでは、ピーク時の収容能力が限界を超えることが目立ってきた。満席のためにあきらめて帰る顧客の姿を見て、山口氏はひとつの対策を打つことにした。

Airレジには毎回、1組ごとの来店人数を入力していた。渋谷センター街という土地柄、最も混雑するのは土日の昼。この時間帯の来店客をAirレジでみると、1組の平均人数が1.8人ということがわかった。

そこで、土日のピーク時間帯は、通常4人がけで1組としているテーブルを2つに分け、すべて2人がけのテーブルにした。もともと2人がけテーブルを並べて4人がけとしていたので、この変更はわけもない。ただ、それまでの「4人がけ×6卓」の店内を「2人がけ×12卓」にすると、テーブルの間隔がつまりすぎてしまいサービスに影響が出る。思い切って2卓を取り払い、「2人がけ×10卓」にした。店全体での総席数は、24名から20名に減ることになる。

この施策を打ったところ、ピーク時間帯に入店を断るケースが減り、土日のランチの売上高は以前の1.8倍になった。テーブルの構成を変えただけで、客単価はほぼ変わらず、客数が倍近くになったのである。店員を増やしたり、改装工事を行うといったコストを投じることなく、大幅な収益の改善に成功したのだ。

「平日に比べて土日が混むということは、もちろん感覚的にはずっと前からわかっていたことなのですが、それだけでテーブルの配置を変えようという動機にはつながりませんでした。『平均1.8人』という数字を見てはじめて、『席を変えればいいのか!』と確信を持ってやろうという気になったんです」(山口氏)

店長を“シフト作成ミス”の恐怖から解放する「Airシフト」

このほかVANDALISMでは、店員のシフト作成・管理も、Airシリーズのサービス「Airシフト」を用いて行っている。従来は、スタッフからLINEメッセージや手書きのメモで届いた次月予定をExcelに手入力し、調整を行ったうえでGoogleカレンダーに転記。完成したらスクリーンショットを取り、画像でスタッフに返送していた。

「空き時間に少しずつやっていましたが、ストップウォッチで測ってみたら、この作業が終わるまでにかかった時間は全部で3時間でした」(山口氏)ということだが、Airシフトを利用すれば、アプリを通じて提出された希望日程が自動的にシフト表に入り、完成したシフトはすぐにスタッフへ送信できるので、所要時間はわずか6分の1の30分にまで短縮したという。

また、時間的な手間以上に、経営者にとって怖いのがシフト作成時のミスだ。「この日は店に入れない」という連絡を受けていながら、転記ミスなどでそのスタッフを割り当ててしまった場合、そのことに直前まで気づかないと、忙しいときに店員が足りないということになりかねない。複数のツールをまたぐことなく、1つのサービス内でシフト作成が完了するため、ミスが起こりにくく調整や連絡もスムーズだという。

紙や電話のような伝統的なツールをITで置き換えていくだけでも、仕事をある程度効率化することはできるが、劇的な改善を図るには、ツール自体がシンプルであること、そして一度入力したデータをさまざまな形で活用できるよう、ツール間の連携がとれていることが重要になりそうだ。

店舗経営者の「情」と「理」をサポートするITツール

ITを駆使して合理的な店舗運営を徹底しているようにみえる山口氏だが、将来のビジョンを聞くと「飲食店経営の醍醐味は『合理』よりも、『情理』の部分にあります。いろいろな人に出会うことができて、ときにはお店でその人の本心が見えることもある。目標はあと約20年、50歳までに30店舗を開くこと。で、51歳になったら全部人に譲って、自分は地元で8席くらいの小さな店をやりたいと思っています(笑)」と、情熱的な表情で語ってくれた。

ただ、「外食市場はずっと右肩下がりで、多くの店は3年続きません。だからこそ、熱い『情』を大事にしながら、同時に『理』の部分も考えていかないと、生き残ることは難しいのかなと思っています」と付け加え、そこでITツールが、考えるためのヒントになり得ると説明する。

山口氏は「平均人数を見て座席を変えることを思いついたように、ほかの数字や、これまでとは違う見え方のデータがあれば、まだまだ自分が気づいていない、違う一手を見つけることができるかもしれません」と話し、Airシリーズの新サービスとして予定されている経営アシスタント「Airメイト」にも期待を寄せる。よいツールがあれば、経営者自身も気づいていなかった店のポテンシャルを発掘できるし、Excelで膨大な数字の羅列と格闘しなくても、把握すべき指標を一目で確認できる。

商品やサービスに対して人一倍のこだわりや思い入れがあり、「情」の強い店舗オーナーほど、冷静な頭で「理」の部分を考え、日々の具体的なオペレーションに落とし込んでいくのは難しいかもしれない。タブレットやスマートフォンでわかりやすく数字を示してくれる店舗向けの業務アプリは、熱い経営者のよき相談相手になってくれるのだろう。

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