音声以外のコミュニケーションには練習がいる!

とはいえ、特に日本人や男性は、顔の表情を使ったコミュニケーションには抵抗のある方もいるのでは?

広報「表情のトレーニングをする場面もあります。体験した方からは、“顔が筋肉痛になりそう!”という感想が出ていました(笑)」

その他、グループになってゲームをしたり、音声を使わないでクイズを出し合ったりするうちに、本当は聞こえる参加者と聴覚障害者であるアテンドの心理的な距離も縮まっていきます。単なる記号としてではなく、生身の人間の気持ちのやり取りをしているという実感が得られるのでしょう。

お話をうかがっていて、普段、いかに私たちのコミュニケーションが、言葉や文字に頼り過ぎているかと感じました。

最後の部屋ではヘッドセットを取り、参加者は静寂の世界から解放されます。そこであらためて、アテンドと参加者との交流があるのですが、今年はその交流の仕方にも昨年にはないひと工夫が加えられているのだとか。

子どもはコミュニケーション上級者?

昨年も開催されたダイアログ・イン・サイレンスですが、広報の方によると、「本年は特に、家族で多くの方に体験していただきたい」とのこと。

小学生以上から体験できます。

その理由のひとつに、昨年の開催時に、子どもの方が大人よりもはるかに言葉を使わないコミュニケーションが得意かもしれないと気づいたからだそうです。

ゲーム形式というのも、子どもがとっつきやすい要因なのかもしれません。

昨年の参加者の感想にも興味深いものがありましたので、いくつかご紹介します。

  • 「手で言葉を伝えてくれたから、話さなくてもすごくわかった」(小3)
  • 「目を見て話すことが大切だということを、覚えておきたいです」(小4)

子どもなりに、人と相対するコミュニケーションの大切さを感じているのですね。

昨年の感想の中には、こんなものも。

  • 「普段、あまり子どもの顔を見ていなかったかも」
  • 「家に帰ってちゃんと家族と向き合おうと思います」

どちらも、お子さんのいる方の日頃のコミュニケーションへの反省とも取れる感想ですね。

ダイアログ・イン・サイレンス広報としては、親子で体験してもらって、家で感想をおしゃべりして、お子さん、親御さんの感じ方の違いを含めて楽しんでほしいそう。

また、聴覚障害、聞こえない世界というテーマで、夏休みの自由研究にも使えるかもしれませんね。

日本のコミュニケーションは変わる?

感想にはほかに、「これで外国人と会っても、大丈夫な気がします!」、「コミュニケーションは音声言語だけではないんだ」というものもあったそうです。

また、聴覚障害者の参加者の方からは、「聞こえる人とも、こんなに豊かに交わることができるんだ」と驚きの声が出ていたそうです。

なくなって初めてその大切さに気づく、とはよく言われることですが、普段あるものをあえてなくした(今回で言うと聴覚)体験をすることで、さまざまな気づきが生まれます。それがお互いの違いを認め、困った時は助け合い、支え合うことにつながれば、関係性はおのずと変わるでしょう。

ダイアローグ・ジャパン・ソサエティの目指すところは、まさにそこなのだそう。

ダーク、サイレンスの他に、ダイアログ・ウィズ・タイムという、年齢を重ねることへの恵みや可能性を味わうイベントもあるそうです。

今後、同ソサエティでは、対話をテーマとしたダイアログミュージアムの創設を目指しています。実現すれば、日本初のコミュニケーションに特化したミュージアムということになりますね。

まずは、今年の夏、ダイアログ・イン・サイレンスで、あなたの中に眠っている想像力や五感が呼び起こされる、言葉にしがたい体験をしてみてはいかがでしょうか。

【取材協力】
ダイアログ・イン・サイレンス
ダイアローグ・ジャパン・ソサエティ