NECパーソナルコンピュータの商品企画本部プラットフォームグループの中井裕介 主任、左が重さ779gでクラムシェルタイプの「LaVie Hybrid Zero(HZ550/BAB)」、右が重さ926gのサバ折りタイプで2in1の「LaVie Hybrid Zero(HZ750/BAB)」

軽いノートPCというのはとにかくありがたい。いつでも身軽に持ち歩けるからだ。本をカバンに入れるような気軽さで持ち歩くことができれば、どこにいても、自宅や事務所にいるのと同じようにPCを利用できるだろう。NECパーソナルコンピュータ(NECPC)が2012年8月、軽さにとことんこだわって世に送り出したノートPCがある。13.3インチの画面ながらわずか875gという軽さを実現した「LaVie Z」だ。2013年の2代目Zを経て今年、779gというシリーズ最新モデル「LaVie Hybrid Zero」をリリースした。800g、700gともなると、もうPCという感じはしない。どうやってこの驚きのPCを作り出したのか……。NECパーソナルコンピュータの商品企画本部プラットフォームグループの中井裕介 主任に、その開発の背景を聞いた。

●軽くなければ意味がない、考え方を変えろ!

――軽さを追求したモデルを始めたきっかけは?

お客様に驚きと感動をもたらすものを作ろうというコンセプトのもと、製品開発を始めました。その際にモバイルPCの要素として何を重視するかのアンケートをとってみたんです。バッテリー駆動時間や大きさなど、いろいろな要素について尋ねたところ、一番重視されているのが、「軽さ」だったんです。じゃあ、とことんそこを突き詰めたらどうなるか、というところから始まりました。

――毎日持ち運ぶノートPCの境界線は1kg以下、というイメージがありますが、最初のターゲットはどの辺に置いたんですか

まずは900gを切るというのをターゲットにしていました。13インチクラスの最軽量モデルが当時1.1kgぐらいでした。そこから1年後に発売してもダントツに軽いモデルということを目指し、900gは切る必要があったんです。結局、初号機の「LaVie Z」は875gにおさめることができました。とはいえ、この900g以内という目標は、とてもハードルが高かったんです。設計の段階では、1kgを切るのがやっとじゃないかと言われていました。いままで通りの設計思想ではそうなってしまうんです。そこで、当時設計の幹部が「このプロジェクトは900g切らないと意味がない」と檄を飛ばしたんです。「考え方を変えろ」と。

――考え方は、どのように変えたんでしょう

一番問題だったのは「マージン」です。筐体の強度を維持するために、ある程度余裕、つまりマージンをもって設計するわけですが、これにこだわっていると、なかなか軽くできない。そこで、一旦どこまで軽くできるか、マージンを無視してやってみて、あとから補強する、と発想を転換しました。

強度のほかにも、パーツごとの重さのばらつきもあります。仕様上の重さと実際の重さが異なるものもあります。実際に計ってみると仕様より軽かったりすることもあります。そこで、一つ一つ実測しながら軽さを追求していきました。ただ軽くするのであれば簡単なんですが堅牢性と両立させながら一定のコストにおさめなければ買っていただけないわけです。そのバランスが難しい。

●マグネシウムリチウム合金の採用と部品ベンダーの強力で達成

――具体的にはどんな手を使って軽くしたんですか

初代のZで言えば、マグネシウムリチウム合金を底面に採用したことです。とても軽い素材なんですが、加工が難しく、当時そんな素材を使っているメーカーはありませんでした。NECでは、先行技術部隊が研究はしていたんです。なんとか加工できるようにしても、いざ量産となると、いろんな課題が噴出して、かなり苦労しました。例えば塗装もその一つ。実際に塗装をしてみると、おかしな模様が出てしまった。どう塗料を変えてもダメなんです。原因を調べると、どうも合金の成分の配列による皺のようだということを突き止め、合金自体の成分を少し変えることで解決しました。

――他に軽量化に貢献したのは?

液晶画面ですね。通常は、液晶画面のユニットを購入して組み付けるんですが、これだとどうしても重くなってしまう。バックライトとガラスと液晶を一体化するための金具が軽量化の足かせになってしまうんです。それを外したら軽くなる。そこで、ユニットで納品してもらうのではなく、金具なしの状態で納品してもらい、本体に直接組み付けることで軽量化しました。キーボードも同じです。周りのフレームを外してペラペラの状態で納品してもらい、本体にねじ止めしました。

――とはいえ、他社の協力なしにはできないことですよね

まず、とにかく世界一軽いPCを作るために協力してほしいと説いて回りました。金属の部分では、素材、圧延、塗装、化学処理などなど、NECPCほか、七つの会社と密に協力しながら実現していきました。ディスプレイも同じです。いろんな協力会社と交渉するうち、いろんなベンダーが一緒になって一つの会社のような形で協力していただいて、軽量マシンを作ることができたわけです。

●11インチより13インチのほうが軽量化しやすい

――バッテリーの存在は軽量化にとって障害になりますよね

確かにバッテリーは重いんですが、インテルがプロセッサーの消費電力を削減していることもあって、バッテリーの容量も少なくてすむようになってきました。放熱用のファンも薄くてすむようになった。もちろん、ファン自体も外装をマグネシウムで特注で作るということで軽量化しています。そのほか、基盤の自体の軽量化もあります。基盤は8層や10層の回路で構成されていますが、層の数を少なくすれば軽くなります。しかし、回路を引き回すために面積が必要になります。一方、層を多くすれば、高集積で面積は小さくなります、その分重くなります。結果的にどちらが軽くなるか、は一概には言えませんが、基盤の構造も重さの観点から、最適なものを選ぶわけです。ちなみに、1代目と2代目は薄く広く。3代目は高集積で狭くという手法をとって設計しました。

――ところで、そもそも13.3インチにせず、小さくすればもっと軽くなるのではないんでしょうか

軽くするには小さくしたほうがいいという話は当然ありました。しかし、11インチにしたほうが重くなるという現象が起ていたんです。つまり、液晶ディスプレイでは13インチのほうが技術的に進んでいて、軽量化されていたんです。一方、液晶以外の部品を考えると、入れなければならないのはどちらのサイズでも同じ。例えば11インチにしてしまうと、厚くなってしまう。トータルのモビリティを考えた時に、13インチにして、狭額縁にしたしたほうが十分小さくできる、そんな議論のすえ、13.3インチに落ち着きました。

●コンマ1gの軽量化を積み重ね、3代目では779gを達成

――2013年にリリースした2代目の「LaVie Z」は、どのくらいの軽さを目指したんでしょう

当然初代より軽く、が目標です。とはいえ、初代で相当な軽量化をしていたので、かなり大変でした。それでもタッチパネル非採用のモデルで、なんとか795gを達成しました。一番貢献したのは、液晶画面のガラスを一気に薄くしたことです。初代の0.4mmから0.25mmにしました。ただ、薄くするとすぐ割れてしまうので、液晶ベンダーさんから最初は「本当にやるんですか」と言われました。「本当にそれを使うんですか」と。我々は、組み付け時の強度を確保するので問題ないから、やりましょうと言って、説得して作ってもらいました。また、底面のマグネシウムリチウムを、0.5mmから0.4mmにして、10gは軽くしました。液晶画面の構造上どうしても重くなってしまうタッチパネルモデルでも、964gと1kg切りはなんとか達成しました。

――そして3代目の「LaVie Hybrid Zero」です

3代目の最新モデル「LaVie Hybrid Zero」では、クラムシェルモデルで779gとさらに軽くしました。これまで底面にしか使っていなかったマグネシウムリチウム合金を天板にも採用しました。液晶画面のガラスもさらに薄い0.2mmのものを採用し軽さを稼いでいます。ただし、平坦な形状の底板と異なり、ある程度複雑な形状の天板は、鍛造という方法を採用して形を作っています。プレスを繰り返して形を作るという方法です。これで、補強のためのリブやねじ穴をある程度自由に設計できるようになりました。さらに、2代目でも同じですが、強度を維持しながら、キーボードのフレーム部に穴をあけるなどの細かな工夫をして、軽さを実現しています。コンマ1グラムの世界ですね。

●2 in 1でも1kgを切れ!

――今回のラインアップから2 in 1タイプも加わりましたね

最新モデルの目玉が2 in 1モデルです。Windowsも8.1になり、タッチパネルの必要性も高まっています。ただ、タッチパネルにするなら、クラムシェルじゃないだろうと。そこで、タッチパネルを搭載しサバ折りタイプで液晶画面をぐるっと後ろに持ってこられるモデルを加えることにしたんです。もちろん1kgを切って、従来の「LaVie Z」の使い勝手や性能や機能を何一つスポイルすることなく、2 in 1化するということをテーマに開発しました。サバ折りタイプを採用したのは、構造が比較的単純で一番軽量化できるという結論に達したからです。

――2 in 1にしながら、1kgを切るのはまた高いハードルです。どこが最も大変でしたか

ヒンジの構造とその強度の部分ですね。薄型化との両立が難しいんです。薄いと、ヒンジが細くなりトルクが足りなくなる。天板と底板を干渉しないように作るのがすごく難しいんです。さらに、かっこよさも必要です。そこで、採用したのが2軸ヒンジです。その名の通り軸が二つあるヒンジですね。以前、先行開発プロジェクトで研究していた構造です。また、タッチパネルはガラスではなくフィルムを採用し、フィルムとフィルムの間に電極が入っているFFFという構造にし、軽量化を図り926gを達成しました。

●まだまだ軽量化を突き詰めたい

――さて、PCはこれからはどんな方向に進化していくんでしょうか

13.3インチのノートPCでは、もう少し軽量化できると思います。ただ、もっと極端な軽量化を目指すなら、やはりバッテリーと液晶のブレイクスルーが必要です。画面では有機ELに期待しています。まだノートPC向けでは使えるものがないんですが、バックライトがないディスプレイというのは、軽量化に大いに貢献します。また、PC全体ということで言えば、スマホやタブレットが普及する中であっても、PCが中心にあって、タブレットやスマホを有効に活用してもらうというのが理想形かなと思います。スマホやタブレットで十分だね、と言われないようにしなければいけません。

――ところで、昔流行っていたミニPCみたいなものはどうでしょう。個人的には待ち望んでいるのですが

ネットブックが終わってしまっているので、難しいとは思います。ただ、PCの流行り廃りは繰り返しますから、また波が来るかもしれませんね。私たちも方向性の一つとして検討はしています。そろそろラインアップ強化をしてもいい頃ですし。いずれにせよ、軽量化はあきらめずにどんどん突き詰めていきますよ。

――これからも期待しています。本日はありがとうございました。

(聞き手・文、写真、BCN道越一郎)