「道徳」が小学校で教科化されて一年、2019年の春からは中学校でも教科化されます。

その背景には、深刻ないじめの本質的問題解決や、子どもを取り巻く環境の変化への適応など、いくつかの側面がありますが、教科化されたとはいえ、わかりやすい成績がつくわけではない道徳という教科の扱いに、教師や親も戸惑っているのではないでしょうか。

今の子どもたちはデジタルネイティブ。わからないことがあったら、すぐ検索する習慣がついている子が多いですよね。

ですが、今の時代を“検索すれば答えが出る時代”と思い込むのは大きな間違いです。今の、そしてこれからの社会では、検索して出てきた答えで解決するほど、単純な問題ばかりあるわけではないからです。

いじめ、戦争、貧困、不正など、日々、さまざまな事件や出来事が報道されています。それらについてどう考えるかと子どもに聞かれて、答えられずに困った経験のある人は多いのではないでしょうか。

昨年、ポプラ社より刊行された『答えのない道徳の問題 どう解く?』は、昨春から、小学校で道徳が教科化されたタイミングだったこともあり、池上彰さん、谷川俊太郎さん、羽生善治さんなど各界の著名人による解答例が話題を集め、評判になりました。

そして今年から中学校でも教科化される道徳ですが、あらためて、道徳とはなにか、家庭でも考えてみることが、これからの混沌の時代を生き抜く子どもたちへのなによりのサポートになるのではないでしょうか。

答えの出ないことばかりの現代

文部科学省は、答えのない道徳の問題 どう解く?のなかで、以下の5項目を、道徳の教科化の背景として挙げています。

  1. 深刻ないじめの本質的問題解決
  2. 情報通信技術の発展と子供の生活
  3. 子供を取り巻く地域や家庭の変化
  4. 諸外国に比べて低い、高校生の自己肯定感や社会参画への意識
  5. 与えられた正解のない社会状況

今までの「正直であれ」「嘘はついてはいけない」といった単純な道徳観では、立ち行かない問題が多いのが現代の社会の特徴と言えるでしょう。

もともとは、2児の父親という共通点を持つ著者3名が、いじめや虐待といった痛ましい報道を耳にするにつけ、なぜそういった問題が起こるのかと考えた時、他人の立場を思いやって考える力や、多様な視点で物事を判断する力が養われていないからではないか、と話し合ったことがきっかけだったそうです。

そこで、大人でも答えを出すのが難しい問題を、考えて、考えて、考え抜き、それを家族や友達と話し合うツールとして、本書のアイディアを思いついたのだとか。

本には13の答えのない問いがカラフルなイラストと共に並んでいます。どんな問いがあるかというと、

  • 「蝶々を殺して、ネコを殺しちゃいけないのは、どうしてだろう?」
  • 「人数が多い方が、どうして正しいって言えるんだろう?」
  • 「ついていい嘘と、ついちゃいけない嘘ってどう違うんだろう?」

・・・いかがですか? いきなり難問ですよね。

本書の後半には、著名人からの解答以外に、実際の小学生たちから出た解答も載っています。中には、大人には思いつかないような声も見受けられます。

そのひとつひとつが合っている、または間違っているとは、誰にも言えません。だからこそ、答えがない問いなのですが、答えのない問いの答えを探すということを、私たちは今まであまりやってこなかったのだと思います。

たとえば、多数決が民主的か、といったら、果たしてそうでしょうか?

上記の「人数が多い方が、どうして正しいって言えるんだろう?」という問いに対する、ある小学生の答えは、「そもそも多数決は、正しい意見を決めるものじゃない」というものでしたよ。