こんにちは。東京小猫商会、文具部1号の和田哲哉です。よろしくお願いします。私から最初の話題は、東京・雑司ヶ谷で開催されたイベントと作品展「Thinking Power Factory(シンキングパワーファクトリー)」(会期10月22日〜25日)のレポートです。じつは私、このファクトリーの準備に参加していまして、22日のオープニングイベントでは司会進行も担当しました。

 皆さん、ツバメノートってご存じでしょうか。東京浅草橋に本社を置く大学ノートの老舗です。このツバメノートの作りの良さや紙の良さはそのままに、後述する「Thinking Power Project」 のメンバーが、デザイナーなどクリエイティブ・ワーク向けの仕様にリファインし、リュウド(株)から販売されている製品ラインアップ。それが今回のイベントの主役:「Thinking Power Notebook(シンキングパワーノートブック)」です。

Thinking Power Notebookのファーストモデル:(上から)「ネイチャー」と「メトロポリタン」

   

 













今回は「Thinking Power Notebook」誕生3周年と大判(A3)サイズの新製品「ガリバー」の発表を記念して、ツバメノートの専務さんや開発に関わったプロジェクトメンバーの皆さんをお招きし、楽しいトークライブが繰り広げられました。

イベントの会場となった「ギャラリー・シャコ」(東京・雑司が谷)

   













 

 

 ここは池袋の和菓子店「すずめや」さんが運営している「ギャラリー・シャコ」(東京・雑司が谷)。会期中は、ノートの表紙デザインを担当したイラストレーター「YOUCHAN(ユーチャン)」による表紙の原画やラフスケッチが壁面のボードいっぱいに展示されています。また、これまでに開発されたThinking Power Notebookと関連アクセサリーのほぼすべてが並べられ、手に取って確かめることができます。

YOUCHANによる表紙デザインの原画とスケッチ(いずれも初公開)を会場の壁面いっぱいに展示

   

 


 

 

自身の原画が展示されているボードの隙間に「ライブ・ドローイング」中のYOUCHAN

   



















Thinking Power Projectのスターティングメンバーは、富山大学芸術文化学部・非常勤講師の竹村先生,アスキー総合研究所の遠藤所長,そしてリュウド株式会社、長澤社長の3人です。その後間もなくにYOUCHANと革小物ブランド「COBU(コブ)」のデザイナー、久永さんが加わり、この素晴らしきノート:Thinking Power Notebookが誕生しました。

 Thinking Power Notebookは、一般に縦長の判型が多い大学ノートを横長に変更。罫線も横罫線から5ミリ×5ミリの方眼罫線に。また各ページの綴じ側にはミシン目加工が施され、必要に応じてページの切り離しができます。アイディアを広く展開しやすい横長の紙面に、方眼罫線を基準に文字やラフスケッチを描き、それをミシン目で切り離してドキュメントスキャナーで読み込む。こうした一連の手順をよどみなく進めることが可能となっています。つまり、デザイナーやクリエイティブな業務に従事する人達を支援する、確かな目的をもって作られた製品なのです。そして、一見普通の大学ノートかと思わせる表紙の紋様は、よく見るとYOUCHANの可愛いイラストが描き込まれているというしかけです。現在10品種ほどのThinking Power Notebookが販売され、ノートに添える革小物など関連アクセサリー類も数多く揃っている状況になっています。

 ファクトリーは10月22日から25日までの開催。初日はチケット入場制の記念イベント。23日以降はYOUCHANの作品展示と物販が行われました。イベントは新作発表と4つのトークライブで構成。

 最初のゲストはツバメノート株式会社の渡邉専務です。専務、とても気さくなお人柄。ツバメノート創業当時の貴重なお話を沢山お話ししてくださいました。戦後スタートした文具問屋から程なくしてノートの製造メーカーへと転身した際の「世界に通用するノートを作ろう」という創業者の精神をまずは披露。また、ツバメのロゴマークは、実は近所のビールメーカーのロゴの雰囲気を拝借したものだと言って会場を沸かせるいっぽう、当時会社に多大な貢献をしながらも惜しくも早世された社員の名にちなみ製品にツバメと命名したストーリーでは、来場の皆さんが感激で静まる一幕も。

 続いてのゲストはThinking Power Projectのスターティングメンバーのお一人で、Thinking Power Notebook販売元でもある長澤社長から、商品化にまつわるエピソードをツバメノート製作風景の写真を交えながらご説明いただきました。プロジェクトで決定された新製品の仕様をツバメノートの職人さん達に伝えるのはいつも長澤社長の役目。Thinking Power Notebookでは毎回特殊な製造方法を職人さん達にお願いするため、いつも最初は断られ、次第に理解していただいて製品に至るという繰り返し。その「攻防」と「信頼の交流」をご長澤さんご本人から熱く語っていただきました。

(左から)リュウド(株)長澤社長,和田,ツバメノート(株)渡邉専務

   

 

 









今回のイベントではThinking Power Notebook の新商品も発表されました。商品名は「ガリバー」。その名のとおりの大判、A3サイズ(!)のノートです。ガリバーはプロジェクトメンバーによる開発会議での席上、YOUCHANの「せっかくだから大きいのにしませんか?」という一声で決定したモデルです。もちろん無意味にA3サイズにしたわけではありません。A3横向きの広い用紙はデザインのラフスケッチに相応しいもの。また既出の多くのA3ノートと違い、ミシン目で切り取って正寸のA3サイズの用紙になるなど、細部まで配慮がされているノートなのです。
Thinking Power Notebook「ガリバー」公式ページ

この日発表された新商品「ガリバー」。笑顔で手にしているのはYOUCHANご本人

   

 

 











ガリバーと同時に発表された革小物の新製品がCOBUの「ハーネス」です。ガリバーは前述のとおりA3サイズ。そのままでは持ち運びに難儀なもの。ハーネスは茶筒のフタのような形をしたパーツ2点と、それらを接続する革のストラップで構成されています。ガリバーを丸め、その両端にハーネスを被せると、ガリバーそのものがキャリングケースになってしまうのです。さらに、丸めたガリバー内にぴったり入る円筒形の革製小物入れ「リリパット」も同時発表。
「ハーネス」と「リリパット」の公式ページ

 今回、ガリバー&ハーネスの発表にあたっては、製品を手にした女性モデルが登場するという趣向も。会場内にあるガラス張りの小部屋のらせん階段から、ガリバー&ハーネスを身に付けたモデルさんが降りてくる演出に、あわてて携帯を取り出して写真を撮る人多数。会場は大いに盛り上がりました。

ガリバーを背中に掛けた女性モデルが登場。彼女が手にしているのはリリパット。

   

 

 











後半はThinking Power Project スターティングメンバー3人が揃ってのトークへ。遠藤所長が準備したプレゼンテーション資料では、プロジェクトがスタートした前後のメンバー間での貴重なやりとりとなる電子メールの内容が公開されました。竹村先生がオリジナルのノートをどうしても作りたくなり、遠藤所長にメールで何度もアプローチする様子。そのメールの文面が見どころです。晴れて製作検討がスタートするもツバメノート(株)から最小ロット三千冊と提示され、さてどうしたものかと悩んでいる時に長澤社長がビジネスオーナーとしての名乗りを挙げた流れなど、おそらく初めて披露された話に会場の皆さんが頷きながら聞き入っていました。

 その後は遠藤氏と竹村氏によるホチキスや電卓など(恒例の)珍しい物のコレクション自慢に突入。当初予定した時間を大幅に超過したため、私から泣く泣く途中打ち切りのお願いに。このあたりのお話は次回どこかのイベントでじっくりお願いしたいと思います……。

(左から)アスキー総研遠藤所長,富山大学芸術文化学部竹村先生,リュウド(株)長澤社長

   
 

 

 

 

「シャコ」に入りきれないほどのお客様にご来場いただきました

   















 

22日のイベントの「トリ」は、YOUCHANが語る Thinking Power Notebook表紙デザインについてのお話。トーク開始直前にYOUCHANからの「ご指名」を受けた竹村先生も急遽同席。竹村先生との出会いから、初めて表紙デザインの依頼を受けた時のやりとり,この日発表された最新作のエピソードなど、進行役の私も時間を忘れてしまいそうなほどの貴重なお話をいただきました。

 

  もともとYOUCHANのお仕事(作品)はノートの表紙に描かれているようなモノクロの線画ではなくフルカラーのイラストが主メイン。たまたまYOUCHANが自身の公式Webページにモノクロ線画を掲載したものの、まもなくにそのページを消去。しかし竹村先生が消去寸前にWebページの線画を目にし、YOUCHANに表紙のデザインを依頼したとのこと。もしも数日ズレていたら今のデザインに至らなかったと思うと不思議な気持ちです。

YOUCHAN(中央)と竹村先生(右)。楽しいお話で会場もなごやかムードに

   
 

 

 











 以上、4組のトークは途中の休憩時間を含めて合計4時間近く。でもいずれも楽しく貴重なお話ばかりで、その時間を感じさせないほどに素晴らしいものでした。終了後のアンケートや直接おたずねした感想から、ご来場の多くの皆さんも満足されたご様子。本当にラッキーな機会だったと思います。

 そしてもうひとつの話題がこれ。今回のイベントのために特別に製作したノベルティ。「ノートトート」と「ツバメピンバッヂ」です。ノートトートはThinking Power Notebookのファーストモデル「ネイチャー」を模した外観とサイズの帆布製ミニトートバッグ。背表紙側はV字、右側はマチ付きの縫製を施し、まるで本物のノートのようです。ネイチャーはもちろんのこと、携帯や手帳を入れる小物入れにもなります。黒色の「製本テープ」に該当する部分の、金箔押しのツバメロゴマークは、極厚口の金属プレートで作られたツバメノート社公認(!)のピンバッヂで再現。ピンバッヂは外して別のところに取り付けることもできます。ちなみにツバメノート(株)の渡邉専務は、さっそくこのバッヂをご自身のスーツの襟元に着けてくださいました。また、初日のイベントのチケット購入の皆さんには、このセットとすずめやさんのどらやきがお土産となりました。

ノートトート+ツバメピンバッヂのセット(限定販売品)

   
 

 

 










ご参考までに、本セットは3,600円(税込)。ファクトリー会期中は会場で直接販売が行われました。今後は在庫がある限り、Webショップの「信頼文具舗」,銀座「五十音」,YOUCHANのWebショップ「トゴル商店」などいくつかのお店で入手が可能かと思われます。(ツバメピンバッヂの単体販売は行われていません)

 以上、Thinking Power Factoryのレポートでした。東京小猫商会・文具部1号の私は、今後も文房具等のイベントの主催やお手伝いをしてまいりたいと思います。皆さま、どうぞお楽しみに。 

わだ・てつや 東京小猫商会:文具部1号、コモノ部3号。文房具サイト「ステーショナリープログラム」主宰、ウェブショップ「信頼文具舗」店長。著書「文房具を楽しく使う」シリーズ(早川書房刊)ではノートや筆記具を趣味として楽しむための基礎的な知識を提供。近年の文房具人気を支えるリソースのひとつとなっている。その他、商品開発・ブランディング等のコンサルティング、講演、イベントプロデュースなどを行っている。 ブログ公式HP