さて、今月も検索ワードランキング上位から気になるワードを捉えてあーだこーだ言いましょ!

ペルソナとは
製品やサービスを作る際に描く、架空の人物像のこと。年齢、職業、居住地だけではなく、趣味・嗜好、休日のすごし方、Web・ソーシャルでの行動などを細かく設定することで、効果的なマーケティング・販売戦略を決めることができます。

 

私岩井は、酒が飲めない。そもそも劇的に弱い。

10代の頃に缶ビールを二口ほど飲んで、その10分くらい後に飲んだ量の何倍もの嘔吐に見舞われた。それからも打ち上げやら飲み会やらに顔を出して試しに飲んでは、異常なほどの頭痛や、気がつくと息がしずらく、「ヒューヒュー」なって息苦しくなる、など、もはや「アレルギー」と言ってもいい反応が表れ、今ではもう諦めている。
 

しかし羨ましい部分もある。バーなど、外から見るとなんだか色とりどりな酒ビンが並ぶカウンターに向かって座り、店主とお喋りしたり、黙ってウィスキー(多分)などをチビチビやっている「大人の男」の姿を見ると、「あそこでジュースだけ飲むのはいかんのか」などと思ってしまう。

そして当然そんなことは「ヤボ」なんだろうと思い、ただ眺めて憧れるだけになる。

演劇をやっていると、周囲に「大酒飲み」と言われる人種が多く存在する。
 

以前共演した女優の「Yさん」は、当時三十代前半で、小劇場出身だがあちこちの大きな舞台に出ていた。僕は昔から彼女と知り合いだったけど、現場で会うのは始めてだった。

Yさんは稽古が終わるとすぐに出演者と共に居酒屋へ飛び込む。

僕は僕で飲まないのだが、そういう場所は好きなので着いて行く。

Yさんはあっというまに酔っぱらい、昨日も一昨日も話していた「四枚履き靴下の素晴らしさ」を情熱満載で話している。

何度目かの「四枚履き靴下」の話が始まる頃、ちょうど終電近くなり、僕は帰った。

そして翌日の稽古場。スタッフさんに「昨日は何時まで飲んだんですか?」なんて聞いてみると「うちらも終電で帰ったけど、Yさんは多分朝までだよ」とのこと。
 

ただ徹夜して翌日に昼から稽古だって大変なのに、徹夜の上にあれだけアルコールを摂取し、分解し、分解しているところにさらにアルコールを流し込み、心拍数を上げ、首から上が真っ赤になったところに全身で「四枚履き靴下」と叫ぶ。

どれだけのエネルギーの消耗なのだろうか。

自分が同じことをしたら、アルコールの分解をなんとかやりとげ、「四枚履き靴下」の話を一度したか市内化ぐらいの段階で卒倒し、3ヶ月は休まないと社会復帰出来ないだろう…などと思いながらすでに本番間近で舞台美術の組まれた稽古場に入る。

稽古も佳境に入り、作品の舞台となるホテルの一室がすでに飾ってあり、置いてある舞台装置のベッドに、誰かが寝ている。しっかりと掛け布団をかけ、ずっとそこで眠っていたかの様に。
 
Yさんである。朝まで飲み明かした後、Yさんは家に帰るのが面倒になり、稽古場の開く昼頃まで街をぶらぶらしたあと、俳優より2時間ほど早く稽古場に入るスタッフさんを待ち伏せていたのだという。
 
稽古をし、稽古が終われば飲みに行き、再び稽古場へ戻ってきて眠る。起きたらすぐに稽古である。稽古場と居酒屋をさまよう、これぞまさに俳優である。顔色真っ青だけど。
 
そして稽古の開始時間となるが、当然Yさんは起きて来ない。出演者みんなで舞台を眺める。我々がこれから全国各地を回って演じる演目。その舞台美術のベッドに眠っている酔っぱらい。彼女もまた出演者である。なんだかな~な沈黙が流れる。
 
「どうします…?」と誰ともなく、言う。
 
基本的には働き者な人物のいない座組だったこともあり、「まあ、無理に起こしても…ねえ…?」という雰囲気になり、結局そこから1時間近く、眠っているYさんを放置して、我々俳優はお喋りをして時間を潰した。
 
後に目を覚ましたYさんは、これでもかというくらいみんなに謝り倒していた。

しかし、公演が始まっても、全国津々浦々の居酒屋に飛び込み、皆勤賞でも狙っているかのごとく毎日しっかりと夜が明けるまで飲み明かしていた。

そこまでいくと、「業」のようなものを感じてしまう。「夜が終わらない」または「夜を諦められない」、そんなポエムが漂ってきそうな、奇声を発する彼女の後ろ姿なのであった。

ちなみに当時、本人に確認したところ、30代前半にして今までの飲み代を合算すると、「2000万円は超えている」とのことでした。
 

「お酒 翌日」
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いわい・ひでと●1974年、東京都生まれ。15歳から20歳までを家にひきこもって過ごす。'03年ハイバイを旗揚げ、以来脚本家、演出家、俳優として活躍。'12年NHKBSプレミアムドラマ『生むと生まれるそれからのこと』で向田邦子賞、'13年『ある女』で岸田國士戯曲賞受賞。http://hi-bye.net

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