シリーズ第一作『トッカン』は、冴えない日常を送っている20代女子の不満や鬱屈を描いた小説でもあった。ぐー子の実家は商売をやっていたが、税務署に帳簿のごまかしがばれたせいで潰れてしまった。だが彼女は安定を求めて公務員になり、親が仇と憎む税務官になって勘当までされてしまった。おかげで実家に帰ることもできず、東京で一人ぼっち。そんな彼女の、大海原のただなかを板切れにしがみつくような心細さが、本を読み進めるうちに我が物として感じられるようになってくるのである。

「(前略)でも、わたしはやっぱり公務員になりたかった。昔から、ずっと安定感のある過程にあこがれてたんだ。小学校の時に家が倒産してから、親はずっとお金がないない言ってて、不安だったから。/今でも気が付いたら貯蓄のことばっかり考えてるよ。休みの日も、銀行の前に並べられている投資信託のパンフレットばっか見てる。二十五にもなって彼氏もいないし…」

高殿は『トッカン』でもう一つ手品を用意している。こうして一人身の不安に怯えるぐー子の視点から税務署の仕事を描くことにより、なぜ人には納税の義務があるのか、その税金が正しく遣われるようにするにはどうすべきなのか、ということが浮かび上がってくる仕掛けなのだ。小説を読み通すことではじめて、主人公が徴収官に設定されていることの意味がわかるようになっている。そして自分の職業に対して誇りを感じられるようになったぐー子は、小説の終わりでわずかながらも成長への一歩を踏み出すことになるのだ。