――景気や世相によって社会の流行が変化するということでしょうか?

善徳:例えばバブル期みたいに、人が「こういう時代が続けばいいな」と本能的に感じている頃は、安定の音楽が求められるし、今みたいに不景気で「時代変わらないかな」「もっと良くならないかな」って心から望んでいる人が多い時代は、変化の激しい音楽が流行り出す……というのが僕の持論で。日本や世界の経済みたいなものに音楽も影響を受けていると思っているから、CDが売れるだとか音楽業界がどうのってところは、多分そういう大きな影響を受けた先で起きていることで。

目先で起きてることを気にして右往左往しちゃってるだけで、根本的な改善をしない限りは、娯楽コンテンツっていうものは、大きく時代を変えられないんじゃないのかなって思ってるんですよね。時代の後にしか娯楽は存在しないんじゃないかと。

――これは目先の話になってしまうんですけど、不景気だとレコーディングにかけられる予算も減ったりするじゃないですか。一方でyoutubeやニコニコ動画出身のアーティストの台頭など、ある意味チープな環境で制作されたものでも、多くの人に支持される音楽も生まれてきているわけで。

善徳:まあ、ニコニコ動画は本当に興味の沸く、面白い……かつ、うっとおしい(笑)存在であって。嫌いなわけではないんですけど、要は良くも悪くもぬるま湯につかっていた音楽業界に対して新しい風を吹かせちゃったかなと。本当に良くも悪くも。

アレのお陰で緊張感が生まれたというか、助かったなとも思ってるんですけど。でもなんていうのかな、「良い歌詞」や「良い曲」を書くことに大金は必要ないと言えるけど、「本当に良い音」で録るには今の所は大金が必要だし、「良い音」を追求するためにも結局は時間はお金で買わないといけない。
僕らがこれまで信じてきた、「良い音」というのは、この先どういうものが「良い音」と思う人が増えるかによって「良い音」ではなくなってくると思うんですよ。シェアの大きいものが常にスタンダードだと思うから。「オリコンチャートの上位にニコニコ動画の曲が来るようになったね」みたいな話は、近年急に常識のようになってきたけど、やっぱり「音楽」っていう大きなコンテンツの中の大半は、古いレコーディングの仕方と、古い音の追求をまだ続けていると思うので。この先はどう変わっていくかどうかわからないけれど。もしかしたら「MP3が最高の音だよ!」っていう時代も来る可能性はあるし(笑)、逆に「動画サイトがWAVでアップできるようになりました!」ってなる可能性もあるし(笑)。

それに、作り手側がああいう音で作りたいと思うような時代になっていくと思うし。そうなると僕らが「いや(レコーディングに)お金はかけないと」って言っても「何言ってんの?」って言われる可能性もあるわけで。どちらも正しいというか、ニーズが結局正義じゃないですか。作り手のエゴとして、これが良い音、良い演奏だとかはあるけど、それは結局エゴ、ミュージシャンのオタクな部分でしかなくて。最終的には作品を1人でも多くに聴いて貰いたいという気持ちがある以上は、そこが求めているものを汲み取れないようになってしまったらおしまいじゃないですか。

本来はやっぱり向こうが新しいものなわけで、こっちがそっちがその精神を理解すべきだし、追いつかないとダメなのかなあとも思うかな。そして自分らがその人達と仕事する際に、自分らが培ってきたものを伝授していくべきだし、伝えた上で「いやいや違うでしょ」と言われることはいっぱいあると思うから、否定されたものを「ニコ動の奴らは~」と言わずに、自分たちが「なるほどそういう考えもあるのか」となっていかないと。常に新しいものが時代を変えていくと思うので。難しいところですよね。