数年前から音楽シーンの大きな流れのひとつとして、カバーアルバムの存在がある。以前、ウレぴあ総研では「V系シーンの新たなブーム、カバーソング集に注目」でカバーアルバムブームの到来を書いてきた。セールス的にも大成功を収めているものも多数あって、“ブーム”になった感さえあるが、実は歌い手にとってカバーほど難しいものはない。それはその人のシンガー、表現者としての実力が試され、晒されるから。

確かにカバー曲を歌うことは、シンガーにとってリスキーな部分を伴うことかもしれいないが、それ以上に大きな意味、意義が存在すると思う。それは歌い手自身にとっても、ファンにとっても、ひいては音楽シーンにとってもだ。

まず、“名曲”と言われ、ずっと歌い継がれてきている日本の音楽シーンの宝を、また次の世代に歌い継ぐことになるから。個人的には、シンガーと呼ばれそれを生業としている人たちはこれがその“使命”だと思う。天から与えられた才能、それを努力で開花させ、人々に何かを“伝える”ことができるという、選ばれた人たちなのだから、歌い継がれてきた名曲を、また次の世代に歌い継いでいく――それが“使命”だと思う。

好きなアーティストが歌うカバー曲を聴いて、オリジナルに興味を持ち、オリジナルを聴いてみるということも大切。オリジナルの良さを改めて感じ、再評価につながるから。その反対もある。自分が好きな曲をカバーしているアーティストの作品を聴いて、今までそのアーティストに興味はなかったのに、聴いたことがなかったのに、その良さを発見できる。つまり、今までは食わず嫌い?聴かず嫌い?だったジャンルの曲や、アーティストの良さに触れる機会を与えてくれるのがカバー曲なのではないだろうか。

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そんなカバーという、難しくも意義がある表現方法に、ソロデビュー当時から取り組んでいるのが、ロックバンドJanne Da Arcのボーカル、yasuのソロプロジェクト、
Acid Black Cherry(ABC)
だ。2007年ABCとしての活動をスタートさせてから、シングルのカップリングには必ずカバー曲を収録し、それを集めたカバーアルバム『Recreation』シリーズをこれまでに2枚リリースしている。彼の、自分が好きな曲から受けた感動を、聴き手に伝えたいという純粋な想いが、それが「名曲を次の世代に唄い継ぐ」というコンセプトに繋がっているのだと思うし、シンガーとしての覚悟を感じる。もちろんオリジナル曲は自分で手がけてはいるが、カバー曲を歌っている彼は、シンガーとしての覚悟と使命というものを胸に、伝えてくれてると思わせてくれる。だからABCのカバーアルバムは他とはひと違う空気感をいつも感じさせてくれるのだと思う。