朝ドラらしさを壊しすぎた『純と愛』

前作の朝ドラ『純と愛』は、終わってみれば極端な賛否両論にまみれた作品だった。期間平均視聴率は17.1%。『てっぱん』が17.2%、『ゲゲゲの女房』が18.6%だったので、決して極端に低い数字ではないが、『家政婦のミタ』の最終回で脅威の40.0%をたたき出した遊川和彦の脚本だっただけに、もっと圧倒的な数字と内容を期待した人は多かったに違いない。そのせいか、終了後は『純と愛』を1分で振り返る動画もネットに出まわって、賛否両論の“否”の意見のほうが勢いを増すという事態にもなっていた。
 

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確かに『純と愛』は、ほとんど救いを感じられない内容だった。冒頭から象徴的に登場していたジュークボックスは、やっと終盤になって純(夏菜)のもとに戻ってきたけど、あっさりと台風で破壊された。純のおじい、愛(風間俊介)の双子の弟、純の父親(武田鉄矢)と、主人公の2人はどちらも家族の誰かを失った。純の母親(森下愛子)は後半から認知症になり、愛も脳腫瘍で最後まで目覚めることはなかった。ただ、こういう極端なアプローチも、東日本大震災後のドラマとしてはひとつのやり方だったんだと思う。

問題はそれを朝ドラでやる必要があったかどうかだ。もともと『純と愛』は最初から朝ドラの定形をぶち壊すというスタイルで作られていた。無鉄砲なヒロインはまわりからかなり疎まれたし、人間の醜い部分もたくさん描かれた。ただ、そういう朝ドラが今までなかったのは、朝からそんなドラマを見たくない視聴者が多かったからだと思う。新しい切り口は確かに必要だけど、やっぱり朝ドラは朝ドラらしいところに意味があるんじゃないかという気がする。
 

絶妙なキャラクターで登場したヒロイン

さて、そこで今回の『あまちゃん』だが、まずヒロインである天野アキ(能年玲奈)の設定が絶妙で、登場の仕方も良かった。アキは、東京では地味で暗くて、向上心も協調性も存在感も個性も華もない、パッとしない子だった。そのアキが、母親である春子(小泉今日子)の故郷で初めて海女をしている祖母・夏(宮本信子)に会い、少しだけ明るさと笑顔を取り戻すというところから物語は始まっている。

このアキの初期設定の表現が大袈裟ではなく、かるーい回想シーンと、ちょっと猫背にひょこひょこ歩く姿くらいで表したところが良かった。朝ドラの定番である“やたらと元気で明るいヒロイン”ではないけど、見ていて憂鬱になるような暗さや屈折した言動はなかった。だから、どこにでもいそうな女の子が、母親の故郷である北三陸でちょっと変わろうとしているところを素直に応援できるようなキャラクターになっている。
 

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アキを演じている能年玲奈は、オーディションで選ばれた子だが、3年くらい前から女優をしていて、向井理と尾野真千子が共演した2012年7~9月期の『サマーレスキュー~天空の診療所~』に出ていた。このドラマは山の診療所を舞台にした作品だったが、そこに手伝いに来ていた医学生のひとりが能年玲奈だった。

もっと前だと、戸田恵梨香と三浦春馬が共演した2011年1~3月期の月9『大切なことはすべて君が教えてくれた』にも出ていた。高校を舞台にした愛のドラマで、武井咲や剛力彩芽と同じ2年1組の中に能年玲奈もいた。この頃は髪が長く、ポニーテールにして教壇のすぐ前の席に座っている。このドラマの頃から比べると、やっぱり今のようなショートカットのほうが似合うなという印象。どちらかというと可愛いタイプだが、横顔の鼻から口にかけてのラインは彫刻のように美しい。少なくともこのドラマのヒロインとしては、適役だったと思う。