残酷な世界だからこそ、人間の希望も感じる
タイトルになっている「クルエル・ワールド」とは直訳すると「残酷な世界」。この世界はクルエルでしょうか。それともワンダフルでしょうか。そう尋ねると、宮沢は「正直に言うと、ずっとクルエルだと思います」と話しはじめた。
「歴史上、戦争が途絶えたことは一度もないし、今も殺人事件や銃乱射事件といった残酷なニュースが絶えない。人間というものが誕生したときから、この地球上に真の平和が訪れたことは一度もないと思うんです。いつかこの世界はワンダフルだと言える日が来てほしいと願っているけれど、残念ながらまだまだクルエルな世界は続いてくんだろうな、という気持ちではいます」
映画の中でも、残酷な世界が続いていく。
「どんなに頑張っても、100%報われるとは限らない。でも、幸せになりたい、報われたいという思いがあるから、そんな残酷な世界でも最後までみんな生きようとあがく。この映画で描かれている現実は、僕たちが知らない裏の世界の話ですけど、本当にこういうことが起こっているかもしれないし、これに似たようなことはきっとあるんだろうなと思います」
そして、そんな残酷な物語の中にも希望はあると宮沢は想いを込める。
「矢野が最後にどうなったかはわからない。でも、僕はあのシーンを演じながら、1人でもいい、どうか誰か幸せになってほしい、報われてほしいと思っていました。それって希望じゃないですか。この映画がどういう物語かなんて観る人が決めることであって、僕たちが判断することじゃないですけど、僕はそういう物語だと思っています」
そして、宮沢は硝煙の匂い漂うこの残酷な現代にも、「きっと希望はある」と前を向く。
「たとえばウクライナがああいう状況下になったときに、救援物資を送ったり、避難民を自分たちの国に入国させてあげたり、世界中から救いの手が届いた。起きている現実は酷ですけど、大変な状況下に置かれたときこそ生まれる人の愛情があるのも確か。
そういうものを見ると、やっぱり人間にはまだ希望があるのかなと思う。自分のことだけを考えているのが人じゃない。他の人も救いたいという気持ちが人にはある。そう信じられることが、希望なのかなって」
じっくりと考えながら、宮沢は祈るように言葉を紡いだ。その言葉に、宮沢氷魚という人間の持つ心の美しさが反射されているようだった。
最後に「小さなことでいいです。この残酷な世界で生きててよかったと感じる瞬間はありますか」と質問を重ねると、穏やかな目元を一層柔らかくして、宮沢は答えた。
「その日の終わりに、今日が終わってほしくないなって思えたとき。いいことも悪いことも含めて、今日はなんかすごくいい日だったって。明日になってほしくない、今日が終わってほしくないなって思えたときに、生きててよかったと感じます」
それは、なんだか心にすっと涼やかな風が吹き込むような答えだった。その神秘性で次々と大役を射止めてきた宮沢氷魚。だがいちばんの魅力は、こうした素朴で質実な人柄なのかもしれない。
作品情報
映画『グッバイ・クルエル・ワールド』
公開中
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