ドサッ!とのせた生姜の上にソースをかける

その上に醤油ベースのソースをかければ特大生姜焼の完成。

【スズコウ】 特大生姜焼
【スズコウ】生姜と醤油の香りが食欲をそそり、ソースが肉のおいしさを引き立てていた

さっそくいただくことにした。筋がなく、ナイフがすうっと入る。小麦粉をうってあるため肉にとろみがあり、なめらかな舌ざわりが舌に心地よい。

ふつうの生姜焼よりも断然うまい

黄色いフライドポテト、真っ赤なニンジン、グリーンのほうれん草の彩りが美しい。

【スズコウ】塩味のフライドポテトとはひと味もふた味も異なる、奥深く、異次元の味わい

フライドポテトがまたうまかった。カリカリに揚げたフライドポテトがソースと生姜と肉の旨味をふくみ、しんなりとした食感が面白い。

うまい、うまいと感心していたらあっという間に250グラムの特大生姜焼を完食していた。

生姜焼というよりも生姜焼ステーキ。ボリュームもあり、ガルニもうまいし、ふつうの生姜焼よりも断然うまかった。

創業者がステーキのような生姜焼を考案した

生姜焼は薄切りの豚ロース肉で作るのが一般的だ。なぜトンテキにするようなぶ厚い肉で生姜焼を提供しているのか。

【スズコウ】「スズコウ」の創業者で、貴雄さんの父の鈴木康平さん

「この店を1964年11月1日に創業した夫が生姜焼をはじめました。大きいのが大好きな人だったこともあり、厚い肉を使うことにしたのかもしれません」(母弘江さん)

【スズコウ】店内に掛かっている東京オリンピック絵地図

1964年は東京オリンピックイヤーで、10月10日から24日まで東京五輪が開かれた。その終了直後、スズコウを開業したというのだ。

「父は18歳から『上野精養軒』で修業をはじめ、26歳で独立。この店をオープンしました。父の名は康平。鈴木と康平で『スズコウ』と命名したそうです」(妹裕美子さん)

「上野精養軒」(創業明治5年)といえば、フランス料理と西洋料理の草分け。その上野精養軒で8年ほど修業し、「スズコウ」を開業した。当初父康平さんと4人のコックが料理を作っていたそうだ。

父のレシピと味を息子の貴雄さんが継承している

貴雄さんは19歳(1988年)で力士を引退。会員制レストランの和食部門で料理の修業をはじめた。28歳の頃(1997年)、「スズコウ」に入店。父の下でホールをしたり、厨房でガルニを作りはじめた。

その父が2008年に死去。貴雄さんが店を継承した。

スズコウ

「父が厨房に立っていた頃はメニューが豊富でした。私がひとりで店を仕切ることになり、ナポリタンやチキンライス、ドライカレーを提供できなくなりました」(貴雄さん)

ランチは生姜焼とポークソテーを提供。共に特大を用意している。

夜はその他、カニクリームコロッケやハンバーグ、サーロインステーキなども食べさせてくれる。

スズコウ

巨大な看板に「昔ながらの洋食屋 ぐりるスズコウ」と描かれている。昭和レトロブームも手伝い、昔ながらを謳うメーカーや商品が氾濫している。どこが昔ながらなのか、首をかしげたくなるものも少なくない。

ところが、蒲田のこの店では、父康平さんが「上野精養軒」で覚えた、昔ながらの洋食をメニューに掲げていた。そのメニューを減らさざるをえなかったとはいえ、父が遺した「スズコウ」の味を貴雄さんが継承している。

次回は別の料理を食べてみたい。自家製のベシャメルソースで作ったカニクリームコロッケを頼むか、特大ハンバーグにすべきか思案している。

【ぐりるスズコウ】

住所/東京都大田区蒲田5-16-8
電話/03-3731-5029
営業時間/11時30分~14時(LO13時30分)、17時~21時(LO20時30分)
定休日/土日曜 ※祝日は営業
※ランチ(ライスとサラダと味噌汁付き)の生姜焼もポークソテー(共に170グラム)も1900円。共に特大(250グラム/2300円)もある。

東京五輪開催前の3歳の時、亀戸天神の側にあった田久保精肉店のコロッケと出会い、食に目覚める。以来コロッケの買い食いに明け暮れる人生を謳歌。主な著書に『平翠軒のうまいもの帳』、『自家菜園のあるレストラン』、『一流シェフの味を10分で作る! 男の料理』などの他、『笠原将弘のおやつまみ』の企画・構成を担当。