【日高彰の業界を斬る・3】 スマートフォン(スマホ)の普及と、海外からの観光客の増加を背景に、ここ数年で日本国内でも街中で「Wi-Fi」につながる場所がかなり増えた。 公衆無線LANサービス自体は国内でも2002年ごろから提供が始まったが、サービスエリア、料金や接続方法の煩雑さなどの問題でなかなか普及は進まなかった。携帯電話各社が全国に大量のWi-Fiスポットを設置したこともあったが、契約者以外は利用できないばかりか、スマホが電波の弱いアクセスポイントを自動的につかんでしまう“副作用”を引き起こしたため、「街中のWi-Fi」に対するエンドユーザーの心証はむしろ悪化した面もある。

ようやく日本でも一定レベルで実用に耐える公衆無線LANが広がり始めたのが、2015年ごろからだ。このころからアジアからの観光客を中心とした訪日外国人が急増。14年10月に観光庁が実施したアンケート調査結果で、外国人が旅行中困ったこととして「無料公衆無線LAN環境」が断トツの1位にあがり、商業施設などでは無線LAN環境の整備が集客につながるという認識が大きく広がった。また、3G時代には月額定額制が基本だった携帯電話のパケット通信料も、LTEでは各社とも従量制に移行したことで、国内の消費者からもWi-Fi需要が高まった。

何かと誤解が多い、公衆無線LANのあるべき姿

ただ、公衆無線LANは、誤解を含んだ不思議な言説が飛び出すことの多いサービスでもある。

例えば、10年以上昔から繰り返される「日本はフリーWi-Fiの整備が遅れている」という指摘。確かに、欧米やアジア諸国の飲食店では、日本よりもずっと前から、チェーン店のみならず個人経営の店でもWi-Fiを提供している場所が多かった。しかし、それは日本が遅れていたというよりも、多くの地域では携帯電話の通信品質が日本ほど高くなかったため、3G/LTEではなく、仕方なくWi-Fiを利用していたという面が強い。

また、サイバーセキュリティが社会問題になりつつある今、まったくのフリーで接続できる街中のWi-Fiスポットは各国でむしろ規制される方向にある。スマホをターゲットにしたウイルスや、改ざんされたウェブサイト等を通じたサイバー攻撃が続々と発生している中で、“野良Wi-Fi”がそこらじゅうに存在するような状態が本当に望ましいのだろうか。

観光庁が16年の9月から10月にかけて行った調査では、「無料公衆無線LAN環境について、前回の訪日時と比べて『かなり改善している』『多少改善している』」と回答した外国人旅行者が60.5%に上り、「改善していない」の8.7%を大幅に上回った(回答数は1903)。日本がWi-Fi後進国だった時期があったとしても、それは過去のものだろう。

また、セキュリティに関して言えば「暗号化されていないアクセスポイントは危険」という認識も根強いが、これも厳密には誤りだ。

もちろん、ユーザーが自宅に設置するアクセスポイントは暗号化を施すべきだが、多くの公衆無線LANが使用するWPA2-PSK方式の場合、そこにいるユーザーが全員同じ暗号化キーで接続している。これは、書類の入った金庫が施錠されてはいるが、その前にいる全員が合い鍵を持っているのとほぼ同じ状態だ。

結局のところ、その場にいる人は誰でも中身の書類を取り出すことができる。もちろん、暗号通信の内容を復号することは違法だが、技術的にはそれほど高度な知識がなくても通信内容を読み取ることができる。

逆に、暗号化されていないアクセスポイントでも、HTTPSでウェブサイトへアクセスするのであれぱ、その場にいる他のユーザーが通信内容を読み取ることはできない(※)。金庫に鍵はかかっていないが、中身の書類自体が暗号文で書かれているため、もし書類が盗まれても、犯人はその内容を知ることはできないというわけだ。(※アクセスしているサイトが本物であり、通信が途中で改ざんされていないことを確かめるため、サーバー証明書を確認する必要はあるが)

技術的な理解が難しいため、ざっくりと「暗号化の有無」が安全性の指標になってしまうのだと考えられるが、少なくともサービスの運営者は一定の認識を持っておかないと、「利用者に不便を強いるが、悪意を持った攻撃者に対しては無力」という、自己満足の“セキュリティ対策”を講じてしまうことにもなりかねない。

公衆無線LANをめぐるさまざまな誤解は、利用者が本当に求めているサービスとは何かが、十分に考えられていないせいで生まれているものが多いように見える。これが誤解のレベルで済んでいれば良いのだが、「Wi-Fiで街おこし・観光促進」といった政策的な動きになってくると、後々大きな問題につながる可能性がある。(続く)

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