スリムで軽量なPHS。今でも音声通話には最適だ

【日高彰の業界を斬る・7】 3月31日、ワイモバイルはPHSの新規契約や機種変更などの受付を終了する。 通信サービス自体の終了時期は特に示されていないが、2010年3月にソフトバンクが2G(第二世代携帯電話、PDC方式)サービスを終了した際、新規契約終了は2年前の08年3月だった。NTTドコモの「mova(ムーバ)」終了時は、新規契約終了が08年12月、サービス終了が12年3月だったことから、早ければこの先2年、遅くとも4年以内にはPHSサービスが終了するとみられる。ただ、PHSは電話機だけでなく、組み込み通信モジュールとしても使われている。東京オリンピック・パラリンピックの準備・開催中に万が一の混乱が発生するのを避けるため、サービス終了は20年秋以降になるのではないだろうか。

いずれにしても、来月以降PHSは機種変更の手続きも行えなくなってしまう。SIMカードの入れ替えができる携帯電話と異なり、PHSはセンター側での変更処理が必要なので、契約者が利用する端末を自由に変えることができない。筆者は20年ほど使い続けているPHSの契約があるため、最後の記念にと、最寄りのワイモバイル店舗へ駆け込んで機種変更を行った。

もっとも、店頭にPHSの新品在庫はなかった(ワイモバイルオンラインストアには「301KC」の一部カラーが残っている)ので、中古で手に入れた端末を持ち込んだ。販売代理店の収益にならない手続きなので断られるかとも思ったが、問題なくスムーズに対応してもらうことができた。

2つの異なる通信技術が、モバイル通信の可能性を広げた

高速なモバイル通信技術やスマートフォンの普及により、移動体通信市場では役割をほぼ終えたPHSだが、その歴史を振り返ってみると、時代を先取りしたサービスを数多く生み出してきた。

PHSサービスが始まり多くの加入者を獲得した1990年代後半、データ通信の速度は携帯電話が9600bpsだったのに対し、PHSは3倍以上高速な32kbps。外出先で仕事のEメールをチェックする場合、ノートPCやPDA(携帯情報端末)とカード型のPHSを組み合わせるのが標準的なスタイルだった。パケット定額制のサービスもPHSが先で、携帯電話ではauが2003年に開始したのに対し、PHSではアステルが2000年、DDIポケット(後のウィルコム、現ワイモバイル)が01年から提供していた。

現在では、スマートフォンとPCのウェブブラウザは同じエンジンを活用しているが、昔は携帯電話の標準ブラウザの表現力は限定的なものだった。しかし、DDIポケットが04年に発売した京セラ製PHS「AH-K3001V」は、PC向けのWebページも表示できる「Operaブラウザ」を搭載。前出のパケット定額制サービスとあいまって好評を博した。スマートフォンの導入も早く、ウィルコムが05年に発売した「W-ZERO3」は、日本市場で一定の商業的成功を収めた初のスマートフォンといって差し支えないだろう。

一定条件のもとで話し放題となる定額制音声通話サービスも、05年の「ウィルコム定額プラン」がその走りとなった。現在では大手キャリア各社とも音声通話は定額を基本として提供しているが、当時は話し放題のためだけにPHSを「セカンド携帯」として持つユーザーも少なくなかった。

これらのサービスは、PHSの技術的な特性をうまく活用した企画であると同時に、サービスエリアやコンテンツサービスなどで携帯電話に対し次第に劣勢となっていったPHSが、生き残りをかけてひねり出した苦肉の策とみることもできる。ただ、携帯電話とPHSという2つの異なる通信サービスが競争を繰り広げたことで、モバイル通信の新たな可能性を切り拓いていった歴史は、現在でも注目に値するのではないだろうか。

携帯電話市場では、端末や通信方式が大手3社ともほぼ共通になり、競争の舞台は通信サービスそのものよりも、さらに上のレイヤーでどのようなサービスを提供するのかに移っているように見える。しかし、無料の食事の提供など、通信との関連性が見えにくいサービスでの競争が目立っている現状には寂しさを感じざるを得ない。5G時代に向けて今は仕込みの時期なのかもしれないが、通信サービスや技術で各社が競い合う、モバイル業界ならではのあの熱い競争をまた見たく思っている。(BCN・日高 彰)

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