矛盾は自分に返ってくる

「夫がいながら自分に好きだと言う女性を、信用はできませんよね」

Aさんはぽつりとつぶやきます。

「そうだね」と返すと、「もし逆の立場だったら、こんな人最低だし絶対に会わないと思いました。いくら好きでも、配偶者がいるくせにほかの人を口説くって、付き合う気になんかなれないです」と、強い口調でAさんは答えます。

まともな恋愛観を持っているのならそう思うのは当たり前で、親しくなるほどに、好きだと言われるほどに、男性がAさんに対して不信感を持つのは避けられません。

本当は独身だと真実を告げるのを回避し続けた結果、男性はAさんとのつながりそのものに嫌気が差し、離れていきました。

「そのとき、既婚と嘘をついてごめんと言うことも考えたのですが、彼の『何も信じられない』という言葉を読んで、もう遅いと感じました。

一緒にいて好きだと言うくせに『夫がいる家』に帰る私をどんな思いで見送っていたのか、想像したらつらかったです」

ここで本当のことを言っても、今度は「どうして嘘をついたのか」、「俺の気持ちを弄んだのか」と彼に責められることは目に見えていて、そのうえで交際になど発展する可能性は低く、「もうダメだ」とAさんははっきり感じたそうです。

「お互いに好意があれば、こうなるのはわかっていたのでは」とそっと尋ねると、Aさんは「彼がまともな関係を求めるなんて、思いませんでした。これまでも自分の状態を変えることなんてまったくしない人で、私が既婚でも関係ないだろうと考えていて」と、苦しそうに答えました。

彼の本心はどこにあったのか、既婚者となったAさんとどうなりたかったのか、本当のことはわかりません。

それでも、LINEで送られてきた「君が好きな俺の気持ちはどうすればいい」という言葉は、彼がふたりの状態に苦しんでいた紛れもない証拠であり、彼自身進むべき道が見えなかったのでは、と感じました。

矛盾は相手を苦しめるのと同時に、自分からも身動きを奪います。

「ただ謝ることしかできませんでした」とうなだれるAさんは、その後、男性とはいっさい音信不通だそうです。