携帯各社はLINE対抗サービスであることを否定する「+メッセージ」

【日高彰の業界を斬る・9】 打ち合わせで取引先のオフィスに向かう途中、電車が止まってしまった。遅れる可能性があることを先方に伝えたいが、混み合っている電車の中から電話をするのも気が引ける。取引先の社用アドレス宛にメールを送ることもできるが、先方がPCの前にいるとは限らない。 こんなときに便利なのがSMSだ。ビジネスでよくやりとりをする相手なら、携帯電話番号は知っていることが多い。メールに比べてSMSは受信側が気付いてくれる可能性が高いので、電話ができない、あるいは電話をするほどではないが、相手に早く伝えたい内容を比較的高い確度で届けることができる。

また、先日家電店に大型商品の配送を依頼したとき、ドライバーから「あと30分以内にお届けします」という連絡がSMSで届いたこともある。企業が電話番号しか知らない顧客に何かを通知したい際にもSMSは適している。

ただ、SMSで送れるのは全角70字以内の文字だけ。これ以上の文字数を送りたいときは複数通にわけて送る必要がある。また、メールと違って画像ファイルなどを添付することもできなかった。

+メッセージはLINEの法人向けサービスと激突する

NTTドコモ、KDDI、ソフトバンクの大手携帯電話3社が、5月9日から開始する新サービス「+メッセージ」は、SMSのように電話番号だけで送れるメッセージアプリで、「LINE」などと同様にスタンプや写真なども送受信できるものだ。

4月10日の発表直後には、携帯電話キャリア各社によるLINE対抗サービスといった報道もあったが、現在のSMSは、LINEで行われているような親しい間柄での日常的なおしゃべりというよりも、前述のようなビジネス用途、メールよりも急ぐ要件、他の方法では連絡がとりにくい場合の手段として利用されることが多い。おそらく、+メッセージもまずはこの類の連絡に使われていくのではないだろうか。

キャリアが電話番号をベースとしたサービスのテコ入れを図る一方、キャリアのネットワークの上でチャットサービスを展開するLINEも、インターネットの世界から電話の世界に近づく形で、新たなコミュニケーション基盤としての覇権を握ろうとしている。同社は3月、企業向けLINEアカウントの新機能として「通知メッセージ」の提供を開始した。

従来、企業から顧客に対してLINEでメッセージを送る場合、顧客が企業のアカウントをフォローしている必要があったが、新たな通知メッセージ機能では、企業が保有する顧客の電話番号がLINE側にも存在した場合、企業は顧客のLINEアカウントを知らなくてもLINEメッセージを送ることができる。(LINEはユーザーの電話番号をハッシュ化して保有しているため、企業とLINEの間で顧客の生の電話番号がやりとりされるわけではない)

電話番号は長らく、氏名、住所、生年月日などと並ぶ重要な個人情報として扱われ、世界中で重複することのないIDとしても利用されてきた。しかし、ほぼ確実に連絡ができる到達性と、個人識別能力の強力さゆえに、誰にでも教えるわけにはいかないセンシティブな情報であり、ある意味では不便だ。

進学などで友だち関係が大きく変わる度、LINE、Twitter、Instagramといった具合に、連絡に用いるアプリを乗り替える若者もいるという。日常的なコミュニケーションツールとして依存度が高い分、何か起きたときにリセットできることが逆に安心感を生んでいるのかもしれない。いずれにしても、誰かに連絡を取るときの電話番号の重要性が、昔に比べて薄らいでいるのは間違いない。

また、スマートフォンやタブレット、PCなど、一人のユーザーが複数の機器を所有し、シーンによって使い分けることは当たり前になった。LINEはスマートフォンは1台に限定されているが、PCとの同時利用は可能だし、その他のアプリは複数機器で同一のアカウントにログイン可能なものも多い。対して+メッセージは、SIMカードが入っている1台に送受信機器が縛られる。

格安SIMなどで複数の電話番号をもつ人が増えているし、5G時代になれば身の回りのあらゆるものがモバイル通信機能を備える世界がやってくる。そうなったときも、電話番号は今のように個人を識別するIDとして君臨し続けるのだろうか。それともSNSアカウントのような、何らかの「ユーザー名」が、利便性の高いIDとして社会に根付くのだろうか。(BCN・日高 彰)

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