「サンキュー、トーキョー!」

「すごい。やばい」

感嘆の声が小さく響く中、見回すと、身体を揺らしながら聞き入る人の中に、そっと涙をぬぐう人たちの姿も見える。

確かに、アンプやマイクを通さなくても、歌や音やエネルギーが魂の奥に直に響くようなこの空間で、ゆったりと座りながら聞き入れば、遠い記憶や感情が呼び覚まされたりして、知らぬ間に『Lifetime』の世界に耽溺してしまうのも当然だ。

だから、誰もがきっと貴重なこの空間と時間を微塵も見逃したくない、という気持ちだったのだろう。「飲み食いしながら見てほしい」と事前のインタビューで田中が言っていたが、多くの人が飲食を忘れて食い入るようにステージを見つめているのが見える。

 

それを察した田中が、食事をしたり乾杯をするジェスチャーをして見せる。ビルボードライブならではのラグジュアリーな雰囲気や欧米感(©田中和将)、再現ライブへの期待感。いつものライブハウスとは違ったいくつもの要素が相まって、緊張感から固唾を飲んで田中の一挙手一投足を見守っていたオーディエンスの顔にも、ようやくリラックスした笑顔が浮かぶ。

 

 

「サンキュー、トーキョー!」

洋楽率の高いビルボードに便乗して、得意顔で外タレ風の一言を放つ田中。『青い魚』が始まると、ステージ全体が青い光で染まった。4階まである客席から見下ろすと、きっと本当に海の底のように映っていたと思う。