一過性ではない、10年という積み重ねの上に熟成されてきた『相棒』というコンテンツにおいては、
平均視聴率16%という数値は、世の中を動かす、パワーを持っているのである。
ゆえに、現在の平均視聴率16%台は、下降傾向とは言いがたい。
そもそも平均視聴率18.1、17.9、20.4%をマークし続けた「season7、8、9」が
あまりにも異常すぎたのである。
この間『相棒』は、オンエア中のseasonで新しい視聴者を育て、
映画でさらなるファンを獲得し、
そして新seasonに誘引するという図式があまりにも見事に当たり続け、
奇跡とも言える上昇数値を叩き出し続けてきたのだから、
「season10」において、ある意味正常になったとも言えるだろう。

    
  

『相棒 season7』                         『相棒 season8』

 
とはいえ今回の「season10」気になる点がいくつかある。
まずひとつが、初回 specialが地味であったことである。
過去第1話と言えば津川雅彦、古谷一行、石橋凌ら大物俳優を用いて、
ロケットスタートというケースが多かったが、今回はやや地味めであったこと。
むしろ第2話の渡哲也(渡は過去に正月SPのゲストを務めた)の回が、
第1話の回であったほうが腑に落ちると思うのだが、どうだろうか……。

続いて、正月specialもこれまた地味であったこと。
こちらも過去正月SPと言えば、渡哲也、壇れい、南果歩、長山藍子といった大物、
ベテラン俳優が起用されていたが、今回、地味と言えば地味。
そのせいか過去における正月SPの視聴率は、17%台から20%近くをマークしていたが、
今回は16.2%に落ち着いてしまった。

そして最後に。
実は今回の「season10」は、過去の登場人物の再登場回がなぜかやたらと多い。
これまでの14話中を振り返るに、第2話・渡哲也、第5話・本仮屋ユイカ、
第11話・高橋克実、第12話・鈴木杏樹、第14話・金井勇太、三宅弘城、
そしてこれからオンエアされる第15話ゲストの萩原聖人も、
おそらくスピンアウト映画『鑑識・米沢の事件簿』で演じた相原誠刑事役で登場するはずである。


荻原聖人が相原刑事役で、米沢のバディとして活躍した『鑑識・米沢の事件簿』

 
つまり、今回15話の時点ですでに、6話が過去の登場人物の物語になっているのである。
過去のseasonを振り返っても、そのような回があることは、
ひとつのseason中、多くても3回、少ないときは0回だったこともあるのだ。
これはスタッフ、水谷豊サイドのひとつの意思の表れかもしれない。
つまりはここでいったん、過去・現在の『相棒』をリセットし、
未来の『相棒』への下準備を着々と進めているのかもしれない。
「season10」において、現時点では大きな飛躍があったとは言い難い『相棒』ではあるが、
それは新しい『相棒』へ向かっての雌伏の時期と言えるかもしれない。

そう言ってのんびり構えていると、その予兆、あるいは全貌が
いきなり「season10」のラスト数回にわたって露わになるかもしれない。
つまり、『相棒season10』の本当の面白さは、ここからかもしれないのだ。


ここからが、本当のはじまりかもしれない。 

   

おおさわ・なおき 編集者歴20年強。趣味は、読書と落語とお笑いとスポーツ観戦(特にプロ野球と大リーグ、メジャーリーグなんていいません、大リーグです)を深く愛する。おまけにねこも深く愛しております。