薬物依存症に陥った息子を抱える家族が、崩壊を経て再生に向かう映画『まっ白の闇』。監督を務めた内谷正文さん自身が薬物依存症に苦しみ、家族が壊れていった実体験をもとに、原作・脚本を執筆しています。
公開前から「リアリティがすごい」「薬物依存を身近に感じた」など話題を集める本作は、11月3日より新宿 K'sシネマより順次公開。薬物依存によって、まっ暗闇のどん底に落ちた家族は、どのようにして地から這い上がっていくのでしょうか。
苦しんでいる人の「光」になりたい、との思いで作られた本作ができるまでのこと、見どころや依存、家族の問題について、内谷さんにお話を伺いました。
監督自身が薬物依存症だった過去
16歳の頃から“仲間”たちと軽い気持ちで、シンナーやマリファナに手を出し、後に覚醒剤まで使用してしまった内谷さん。33歳頃までおよそ17年の間、薬物を使っていました。
22歳で俳優の道に進んでからは、地元・埼玉から東京に出ることが増え、薬物を使う機会は減っていましたが、それでもズルズルと使い続けていたといいます。
「私が薬物を使用したことで、3歳年下の弟を巻き込んでしまいました。彼が重度の薬物依存症になったのは、私が31歳のときです。そこから家族にとってつらい時期が始まりました」(内谷さん、以下同)
内谷さんは薬物の使用を止めることができた一方で、なぜ弟さんは止められなかったのか。純粋な問いを投げかけると、内谷さんは「自分にはやりたいこと(芝居)があったことと、人との出会いが大きかった」と振り返ります。
薬物依存から「逃げる」のは簡単なことじゃない
「夢だった俳優の仕事を続けるためにも、お世話になっている方々に迷惑をかけたくない。『(薬物使用を再開して)この人を裏切るわけにはいかない』と思える人たちとの出会いがありました。
それがかつての“仲間”に対して、薬物使用の誘いを断る言い訳にもなりました」
内谷さんは自らの恥部を堂々とさらけ出します。「言い訳が欲しかったんです」と正直に言葉にします。薬物をやめる言い訳、薬物と距離を置く言い訳…いくら断っても“仲間”が勧めてくる薬物を振り切るには、「薬物を使わない理由」がどうしても必要だったのです。
「薬物依存から逃げるのはそれくらい難しい。
2005年から薬物依存症をテーマにした一人体験劇『ADDICTION~今日一日を生きる君~』を全国の小中高、大学などで公演しています。
子どもたちに観てほしい、知ってほしいという思いと、私自身が薬物の世界に戻ることがないように、という気持ちで取り組んでいる活動です。そこでも若い人たちに『逃げる勇気を持ってください』と伝えています」