薬物依存症者に振り回される家族。やがて壊れていく
内谷さんが13年続ける一人体験劇は、自身の薬物依存経験を伝えるコンテンツです。それを映画化したのが『まっ白の闇』。一人体験劇を始めた頃から映画化を目指して、脚本を書いていました。
ただ、年月が経ったこともあり、設定を現代風に直すなど、一部に手を入れたそうです。
ストーリーの前半では、兄の影響で薬物に手を出した弟が、いつしか重度の薬物依存症者となり、家族は弟に振り回されるようになります。家族だけで問題を抱え込もうとしますが、それは非常に困難なことでした。
後半では、薬物をやめたい人のサポートとケアを行うリハビリ施設「ダルク」と、薬物依存症者を抱える家族会の存在を知り、家族が回復に向かう姿が描かれています。
「家族の問題は私のせいだ」と思い込む共依存の怖さ
「弟が重度の薬物依存症になったことで、私たち家族はどん底に落ちました。地獄でした。ただ、その後、ダルクや家族会につながったことで、本人(薬物依存症者)ではなく、自分たちが変わらないと何も変わらないんだ、と理解したんです」
作品では薬物依存症者の問題を「自分の問題」としてとらえる家族が、なんとかしようとあらゆる手を尽くすも、一向に良くならず苦しみ続ける「共依存」という言葉も出てきます。
改善のためにどんなに努力しても、問題は進行し、怒りや悲しみ、自責感、絶望などを感じてしまうのです。
「『家族が薬物依存症者であることが知られたら困る…』と世間体を気にする姿勢と、『家族が薬物依存症になったのは私のせいだ…』と思い込み、責任感を感じて行動する共依存は背中合わせの関係にあります。
作中では共依存に陥っていた家族が、『愛ある突き放し』をすることで、薬物依存症者本人から距離を置く様を描いています」
「映画は家族がどん底まで落ちていく前半と、家族が光を見つけて立ち直っていく後半とに大きく分かれています。前半では依存は誰もが陥る可能性があるものだと感じていただけるはずです。
違法薬物に限らず、処方依存という問題もあります。睡眠薬や鎮痛剤を用量・用法を守らずにたくさん飲んだことがある…そういった方やアルコール、セックス、ゲーム等、あらゆる依存について考えていただける機会になるはずです」
何かしらへ依存するのはおかしなことではない。
でも、良い依存と良くない依存とがある。良い依存先(人や場所)をいくつか持って、それぞれで支え合って生きていくのが、この世界で他者と生きていく醍醐味なんじゃないか。
薬物や依存というトピックの他に、そんなことを考えさせられた良質な作品でした。