【特集】「第28回 東京国際映画祭」の舞台裏

「東京国際映画祭」コンペティションディレクターが語る、全16作品選定裏話

2015.10.25 10:30

東京国際映画祭の顔はやはり世界の映画作家が賞を競う「コンペティション部門」。その見どころをコンペティションの作品選定ディレクターを務める矢田部吉彦さんに聞いた。

『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』

今秋シーズンの世界各国の新作を中心とした映画と、その作品に携わる映画人が一堂に集う第28回東京国際映画祭(※以下、TIFF)が、10月22日(木)より10日間に渡って開催されている。カンヌを筆頭に世界の名だたる国際映画祭がそうであるように、映画祭の顔はやはり世界の映画作家が賞を競う「コンペティション部門」。その見どころをコンペティションの作品選定ディレクターを務める矢田部吉彦さんに聞いた。

国の対立、移民問題…世界がいま直面している現実を反映させた作品が多かった

今年の応募総数は世界86カ国から1409本。まず全体の傾向について矢田部さんはこう明かす。

「いま世界を見回すと一触即発で戦争がいつ起きてもおかしくない、なにか不穏な空気が立ち込めているような気がします。選考を振り返ったとき、そういった国の対立であったりとか、移民の問題であったりとか、世界がいま直面している現実を反映させた作品が多かった気がします。おそらく意識的にしろ、無意識にせよ、今の映画作家に見過ごせない現実があることの表れだと思います」

その一方で、現在の世界の映画シーンが見てとれる選考でもあったそうだ。

「ここ数年、世界の映画祭で存在感を増している国がいくつかあります。たとえば北欧や東欧、西アジアのトルコやイラン、南米・中米などがそう。これらの国から届く作品はやはり勢いを感じる作品が多かった」

その結果、例年以上に今年は「国もジャンルもさまざまなタイプの作品が揃う、間口の広いラインナップになった気がします」と明かす。

世界の映画シーンを席巻している中南米、東欧、北欧、西アジア勢

ここからは今年のコンペのみどころを紹介する。

先に触れたように現在、世界の映画シーンを席巻しているのが、中南米、東欧、北欧、西アジア勢。

たとえば今年のヴェネチア国際映画祭はベネズエラの作品が最高賞に輝いている。

そんな注目エリアの新鋭監督が手がけた作品として要チェックなのが『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』『家族の映画』だ。

「『モンスター・ウィズ・サウザン・ヘッズ』のロドリゴ・プラ監督はウルグアイ出身のメキシコ人監督で、おそらくここから国際的な評価をどんどん高めていくであろう期待の才能。平凡な主婦がとんでもない事態にはまっていくのですが、とにかくノンストップでストーリーが途切れないで進んでいく。

この雪だるま式に転がっていくストーリーテリングと緊迫したサスペンスシーンの演出力は見事。サスペンスやスリラー映画の好きな人は必見でしょう。

『家族の映画』

『家族の映画』を手がけたチェコのオルモ・オメルズ監督はすでに同国では知られた存在。おそらく彼もこれから世界での知名度が上がっていくはずです。邦題も原題のまま(※原題:Family Film)なのですが、ただの家族の物語だったら、そうタイトルはつけないわけで(苦笑)。そこにこの監督のほかにない才気が見てとれる。

一見、平和で幸せそうな家族が一転……といった具合で。ほんとうに意外なワールドへと観客は誘われる。“次はどんな物語を作り上げるのだろう?”と期待してしまう監督です」

矢田部さんいわく「今年のコンペティションはこれからが期待される30代から40代の新進監督たちの作品が中心になった」とのこと。こういったこれから世界で大きく飛躍するかもしれない若き映画作家たちのほとばしる才能に出会えるのもコンペティション部門の大きな楽しみといっていい。

今の世界情勢を痛烈に体感!

次にもうひとつの大きな傾向であった、世界の今が見える作品としては『スリー・オブ・アス』『ルクリ』があがる。

『スリー・オブ・アス』

「フランス系イラン人のケイロン監督による『スリー・オブ・アス』は、自身が監督・主演をして実の父の人生を映画化した作品。このお父さんの人生というのがまさに激動の個人史で。イランで生まれ育ち、反政府活動の末に投獄、そして釈放、やがてパリへの亡命という道を辿る。タフなテーマなのですが、それをあえてユーモアをもって描くことで最高に笑って泣けるヒューマン・コメディになっている。

完全なコメディではあるのですが、その中から浮かび上がってくるのが“移民”と“難民”の問題。移民を移民の視点から描くことで、今のヨーロッパで起きていること、またいま世界にある対立や紛争の縮図がみえてきます。

『ルクリ』

『ルクリ』は、16本の作品中で最も尖がっていて、難解でアートな映画祭ならではの作品といっていいかもしれません。

この作品、実はいつの時代、特定の場所かも明確に提示されるわけではない。でも、戦争の影がしだいに人々に忍び寄る様がそのビジュアルと音響でびんびんと伝わってくる。

いま世界に立ち込めているなんともいえない不穏な空気が画面を通して、感じられるんです。もう“ひしひし”と。その表現方法といい、題材へのアプローチといい、監督の野心的な試みが光ります」

よく言われるように“映画は時代を映す鏡”といった側面があるのは確か。現代の作り手が今何を考え、今何を切り取って描こうとしているのか?これらの作品は、きっと今の時代を体感できることだろう。

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